【硬式野球】黄金時代の名監督・五明公男氏 ロングインタビュー 後半

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【硬式野球】黄金時代の名監督・五明公男氏 ロングインタビュー 後半

2014年 3月1日
法政大学多摩キャンパス

「怪物」と呼ばれた江川卓氏を擁し、リーグ戦4連覇。法政大学野球部の「黄金時代」と呼ばれていた時期に、五明公男氏は監督を務められていました。監督退官後も法政大学と深く関わり、最近まではスポーツ健康学部の教授でした。しかし、今年の3月でご退職されるとのことでこの取材を敢行。取材後、五明氏は大学教授として最後となる講義を、集まった大勢の同級生や教え子に向かって行いました。この度は春季リーグ戦開幕直前特集として、その取材の全貌を余すところなく掲載します。後半は法政大学への思いを中心にお届け致します。

最終講義で法政への思いを語る五明氏

五明氏が語る、六大学野球と法政大学の素晴らしさ

―現在、六大学の人気が下降気味ですが、それを肌で感じることはありますか
神宮球場に沢山のファンが来て、六大学に人気が出てくる為には、やはり六大学チームにスターがいるかいないか。例えば江川だってそうだし、最近では早稲田の斎藤佑樹(現北海道日本ハムファイターズ)とか。それからもっと古い時代で言えば法政の田淵幸一ホームランバッターが六大学本塁打新記録を達成するんじゃないかとか。山中正竹がいた当時、法政の黄金時代で個人の人気もあったけど、チームの人気もあったよね。すごくチームに魅力があるし、個人にも魅力がある。そういう魅力があるチームがあるかないか、個人的にすごく魅力がある選手がいるかどうか。だからスターが誕生してくれば、人気がパッと出ますよ。甲子園で活躍した選手が東京六大学に来る。そこが伝統の良さだよね。甲子園で活躍した選手が神宮で投げれば盛り上がるよね。そのためには良い試合ができるかどうか。良い試合とは各チームが切磋琢磨して中途半端な練習じゃなくて、最大限に努力したチーム作りをしているかどうか。やっぱりチームとしての魅力というのが出てくるわけだし、それを東京六大学でみんながやれるかどうか。そのためにはどんな練習をしてるか、どんな監督がいるのか、どんな監督がどんな哲学で指導しているのか。そうすればチームの魅力が出てくるし、その魅力が出てくれば勝っていく。あまり強くなくても東大みたいに負けても一生懸命戦かう、そしてたまに強豪に勝つ。そういうチームとしての魅力が出てくれば、人気が上がってくると思います。つい何年か前よりは今は神宮球場は一般の人たちが増えていますよ。それは学生席というのをやめて応援席となって、一般の人たちもそこで応援しても良いとなったのも原因かも知れない。それが連盟の方針でもあるよね。それと宣伝。連盟として各大学もPRも重要だよね。テレビの放映や新聞とかマスコミの力をこれからの時代はうまく使わないとね。それと一番の悩みは肝心な学生の動員数が少ないってことかな。学生は勉強しなきゃいけない時代で、前だったら神宮で試合がある時は先生が「お前ら授業休んでいいぞ」って言う時代だったけど今は違う。だから僕が言っているのは選手がもっと情報を出して、「たまには神宮に来てくださいよ」とか選手がもっと六大学野球の良さを学生にPRするのが重要なことだと思うね。今まで通り見に来て下さいよという時代じゃないし、PRの時代だから、今の若者たちはパソコンを使いながらうまくできる時代なので。野球をやらない人たちともタイアップして、どうやって売り込んでいくか。こういう良さが六大学野球にはありますよと。今まで来なかった法政の学生が神宮球場に行って、校歌を聞いたりすると、また行きたいとなる。そういうことを一般の学生にどうやってPRするか。それは野球部の選手・マネージャーにもかかっているし、応援団にもかかっているし、大学自体にもかかっている。大学はもっと六大学野球をPRしてもいいんじゃないかなという気がしている。しかし何と言っても東京六大学の人気を上げるにはまず選手の努力が必要かなと。大学に来て授業に出席して先生に顔を出し、挨拶をするというのは大事なことだと思う。一般学生にも職員にも。ただスポーツをやって、グラウンドと合宿所の行ったり来たりじゃ駄目だね。より多く学校に顔を出すことだね。

―現在の野球部について、どう思いますか
今、東京六大学は東大も段々力を付けてきているわけだし、どこの大学にも優勝のチャンスはある。だから東京六大学の中で優勝するにはすごく大変だと思うね。これは練習するしかない。あとは選手のまとまりというのかな。プレッシャーに本番で勝つ。プレッシャーに負けないというチームを作らないと、実力が拮抗しているから緊張する場面も多いだろうし、やっぱり本番でどれだけ力を発揮できるかどうかだよね。今年の春のリーグ戦もどこのチームが優勝するかわからない。目標をより高いところに置いて地道に努力して練習量も質も他の五大学に負けないようにしないと勝てないよね。それには監督と選手がよく話し合って、どう戦っていくか。この春の練習にかかっているね。特に法政の場合はやっぱりエース・石田の出来だね。チームが勝つというのはエースが1回戦で勝つ、2回戦で誰かが負けてもいい。3回戦は必ずエースが投げる。絶対的エースをいかにチームが作るかが一つ。うちの場合、石田が1回戦目、3回戦目で勝って2勝1敗で良いでしょう。あと打撃では春のシーズンを同じオーダーで通せるかどうか。春の練習やオープン戦でリーグ戦をどう戦っていくかという事でメンバーを決めていくわけだから、オーダーを一旦決めたら変えない。打順が変わらなければ打順ごとの役割が明確になりチーム力が向上する。だからエースと不動のオーダーが組めるかどうかがこの春にできるかどうか。不動なオーダーで「法政の型」を確立出来るかどうかが優勝する方法。他の大学もそうだと思います。エース、不動のオーダーでいかにリーグ戦の前までにつくれるかどうかどうか。そういった点で法政優勝は石田投手の肩にかかっていると思うね。

―監督経験者の五明さんから見て、神長監督はどのような監督だと思いますか
神長監督はよく選手を自分の目で見て、自分で判断している。指揮官って責任があるから、よく現場に立つことが大事。監督がだんだん指揮者として駄目になっていくのは現場から目が離れていくこと。監督が有名になっても、雑用が多くなっても、常に現場に指導者はいないといけない。でも神長監督は現場主義重視で良いんじゃないですか。選手を公平に見て、えこひいきは無い。誰にも一生懸命練習している選手には平等にチャンスを与えている。そういった点で選手は信頼しているんじゃないかな。

―五明さんが思う、良い選手の条件とは何だと思いますか
真面目に取り組む姿勢を持った人。あるいは野球が大好きな人。それから野球が大好きってことは用具を大事にするという人、グラウンドを大切にする人、仲間を大切にする人。僕からすると、それが真面目に野球に取り組む姿勢というのかな。それを支えるのは忍耐力だろうな。やっぱり自分で野球が本当に好きだという人じゃないと指導者になるべきではないし、適当じゃ駄目だと思います。とことん野球が好きだっていう人じゃないと。生半可では一流選手になれないし。でも一生懸命やっている人ってどこか「好きなんだな」と伝わるのではないかな。オリンピックで葛西(紀明)選手を見ていたって、歳を取っていてもメダルを取れたし努力するって大事なんだなって。それがスポーツの良さであり、アスリートの戦う姿じゃないかな。そうゆうアスリートから夢とか勇気、感動を僕たちがもらうわけだから。そういうような選手に知らず知らずになってくれれば一番良いよね。

―五明さんにとって、法政大学の良さとは
自分の本当にやりたいことがあれば何でもできる大学。責任は当然あるけれど、何でもそこに束縛されない自由と進歩がある。それと僕が良いと思っているのは、校歌にもあるけど「良い師 良い友」。これは法政大学の場合は色々な職種・家庭の学生さんが北海道から沖縄まで一杯来る総合大学ですし、色々な友達がいるし、先生だって宝庫だと思う。それを利用するかどうかが学生なんですよ。どの先生の授業を受けようか、どの先生と会って話をしようか、学部を越えたって個人的にいくらでも話せるわけでしょ。一杯自分が接触していって成長していけばいいんだから。そういう点ではうるさくない大学じゃないかな。節度さえ守れば自由だと思う。良い大学だと僕は思います。ただ、PRの時代、経営の時代になってきたから、少子化も迎えているし、大学だって生き残りをかけるわけですから。そしたらどうやって生き延びていけばいいか。良い大学だけど今の状態ままで何も方策も下さなければ他校にどんどん引き離されてしまう。今、真剣に生き残りをかけて、法政の良さを残しながら教育的・経営的に運営していかないとその危険性は十分ある。そういった点では「スポーツの力」は経営的にすごいパワーがあるので、スポーツの力をもっと大学当局は考えてほしいと思う。僕らスポーツ関係者は頑張って来たけどね、まだまだ足りない。これからも「法政は永遠に不滅である」という為には、若い大学教職員や学生にかかっていると思います。頑張って下さい。OBとして大学・学生を支えていきます。

(取材:川添岳、遠藤礼也

日大三高・小倉全由監督のコメント

先ほどの五明先生に、自分に対して「小倉のこと尊敬している」と本当にもったいない言葉をいただきまして感激です。関東一高で監督人生をスタートしましたけど、25歳の時に五明先生と一緒に食事をさせていただく機会がございまして、その時に今思えばすごいことを聞いたなと思います。五明先生に「もし江川投手が相手チームに居たらどう攻略しますか?」と質問したんです。その時に五明先生が「まずしっかりとしたスイングをつくる。江川投手の150㌔に合わせたスピードボールで練習しても、バッティングの形はできない。緩いボールを引きつけて、しっかりとしたスイングを作って、それから速いボールに対応する。そのような練習をしなかったらいつになっても江川を打つことができないだろう」と。関東一高に持ち帰りまして、その言葉をヒントに緩いボールを引きつけてスイングをさせるバッティングを指導しました。そして日大三高に来てからは「日大三高=小倉=バッティングのチーム」だと言われるようになりました。これは本当に五明先生に教わったその指導が無かったら、今自分はこうやって日大三高の監督としてやることも甲子園に行って選手たちと一緒にプレーすることもできなかったと思います。五明先生のあの言葉が指導者としての基礎の基礎となった素晴らしい教えでした。2001年、2011年と全国優勝させていただいた時も「どこで野球を教わりましたか?」と聞かれた時に、自分は「五明先生に教わったバッティングをそのまま指導しているだけです」と。何回か五明先生の講義に出させていただいた時には「現場の監督というのはこういうことを指導しているんだよ」といったことも五明先生に教えていただきました。これからは空いている時間に日大三高の方に来ていただいてご指導願えたらと思います。本当にお疲れ様でした。どうもありがとうございました。

最後に、五明さんから野球部へメッセージ

奮起一番 天皇杯を獲得せよ

2014年4月9日 

五明公男 

取材後記

とても分量が多かったと思いますが、最後までご愛読いただき誠にありがとうございます。五明さんへの取材は1時間を軽く超え、文字に起こす作業が何よりも大変でした。ですが、皆様に満足いただけたなら幸いです。快く取材を引き受けてくださった五明公男さん、貴重なお時間をありがとうございました。また、今までスポーツ法政新聞会へ多大なるご支援・ご協力いただいたことも重ねて感謝申し上げます。43年間も法政へご尽力いただきまして、本当にお疲れ様でした。

 

フォトギャラリー

  • 2gomyou2最終講義を聞きに、多くの関係者が集まった
  • 2gomyou3祝辞を述べる日大三高野球部・小倉全由監督
  • 2gomyou4スクラムを組み、校歌を歌う五明氏(中央)
 

 

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