インタビュー
G.G.佐藤氏
ーー法大での4年間を振り返って
法大に入学した当初、監督から「練習に来るな、まずは学校に行け」と言われたのが印象的で。野球のコミュニティだけに留まらず、大学の授業や学生生活を通じて視野を広げることの大切さを学べという監督なりのメッセージでした。野球だけでなく、勉強や人との交流も大切にすること。それを聞いたとき、「大学ってすごくいい場所なんだな」と感じましたね。
ただ、自由な時間が増えた分、遊びにも走りました。パチンコばかりしていた時期もありましたが、それも含めて自己責任でした。監督や周囲の大人たちは、対等な立場で接してくれ、何かを強制するのではなく、自分で考えて行動することを求められました。そのおかげで、自分と向き合う時間が非常に多かったですね。
野球では、4年間補欠。3年生のときには練習に行かない時期もありました。補欠同士で武蔵小杉のバーミヤンに集まり、悩み愚痴嫉妬をを共有する日々で。他人と比較して苦しみ、「なんであいつが出て、俺が出られないんだ」と葛藤することもありました。それでも、なんとか野球を続けた4年間でしたね。
ーー高校と大学の違いは
高校と比べて、大学は自由度が格段に高かったですね。一人暮らしを始めたこともあり、練習するのも遊ぶのも自分次第。すべて自己管理のもとで動かなければならない環境でした。
野球のレベルも圧倒的に高かったです。最初の練習で、4年生の先輩たちのプレーを見たときは、まるで別世界に来たような衝撃を受けました。自分は19歳で入学しましたが、21、22歳の先輩たちはすごく大人に見えましたし技術やフィジカルの完成度を見て、「これは簡単にはいかないな」と実感しましたね。
ーー大学の経験がプロでどう生きたか
大学4年生のある日、自分に問いかけました。「俺はどうなりたいんだ?」と。補欠だったこともあり、ずっと悩んでいましたが、最終的にたどり着いた答えは、「俺はホームランバッターになりたいんだ」と強く思ったんです。
監督やコーチには「お前にホームランバッターは無理だ」と言われましたが、そんなことは関係ない。自分が心から望む姿に向かって努力することを決意しました。ちょうどその頃、メジャーリーグを見て、屈強な選手たちが豪快にホームランを打つ姿を目にしました。それを見た瞬間、「これだ」と確信しました。そこからは、人の目を気にすることも、他人と比較することもなくなり、ただ理想の自分を追いかけるようになりました。
この経験があったからこそ、アメリカへ行く決断もできたし、プロ入りへの道も開けたんだと思います。
ーー大学での印象的なエピソードは
特に印象的だったのは、同期の阿部真宏(近鉄→オリックス→西武)との関係です。彼は1年生からレギュラーで4番を打ち、大学日本代表にも選ばれるような選手。一方で、自分は補欠。彼と比較して苦しむことが多かったですね。
しかし、大学4年のある時点で、「もう阿部を意識するのはやめよう」と思い、自分自身の理想を追い求めることにしました。その後、アメリカで3年間プレーしてプロ入りし、久しぶりに阿部と再会したとき、「あれ? こんなに小さかったっけ?」と思ったんです。以前は彼を越えられない壁のように感じていましたが、より厳しい環境で努力を続けるうちに、気がついたらかつて意識していた阿部という壁をぶち抜いていたんですね。この経験からも、人と比較するのではなく、自分自身の目標に集中することの大切さを学びました。
ーー現在の法大関係者とのつながりは
ありますよ。野球界でもビジネスの世界でも、法政大学出身のOB・OGは多く、そうしたつながりはとてもありがたいです。学生には「友達や知り合いこそ財産だ」と伝えたいですね。人とのつながりが、将来の選択肢を広げることにつながるので、積極的にコミュニケーションを取ることをおすすめします。
ーー昨秋、大島監督と神宮で話している場面が見られたが、どのような話をしていたのか
あのときは、バッティングについて話したと思います。
それと、今の若い選手たちとの関わり方についても話した記憶がありますね。
松下(歩叶、営4=桐蔭学園)の話もしました。彼は高校大学の後輩なので。気にかけています。
ーー松下選手とは普段からコミュニケーションを取っているのか
松下はLINE友達なんです。一度食事にも行ったことがありますしね。
そのときに「どうなりたいのか?」と尋ねたんです。そしたらやはり彼には秘めた思いがあり、もっと高みを目指したいという気持ちを持っていました。
目標は、セカンド・サード・ショートの3ポジションでベストナインを獲得し、日本代表に選ばれてプロ入りすること。
「目標は実現可能かどうかではなく、自分が本当にワクワクするものを掲げるのが大事だ」と伝えました。
彼からは「キャプテンになりました」「ジャパンに選ばれました」といった報告が時折届きますが、「そんなことで満足するな、お前なら必ずできる」と常にエールを送っています。
彼は本当に可能性の塊ですからね。
ーー法大野球部が優勝から遠ざかっていることについて、どう考えるか
難しいですね。なぜ優勝したいのか、という部分をしっかり考えているのかどうか。もちろん考えているとは思いますが、それをもっと明確にしないといけないですよね。優勝や世界一といった目標は、相手がいる以上、コントロールできない部分もありますし。
だからこそ「なぜ勝ちたいのか」という目的をチーム全員で共有することが重要だと思います。
例えば、「法政のファンを喜ばせたい」「学生たちを勇気づけたい」「未来に希望を与えたい」といった大義があれば、たとえ10対0で負けていても心は折れません。
これはオリンピックの経験からも痛感したことです。当時、星野仙一監督は「金メダル以外いらない」と言っていましたが、その先の勝つ以外の目的が示されていなかった。
準決勝で負けたとき、目標が絶たれたことで、正直気持ちが切れちゃったんです。
一方、WBCで栗山監督が掲げた「1人でも多くの人に感動を届ける」という目的は、チームに強い一体感を生んだんです。
源田(壮亮、埼玉西武ライオンズ所属)も、「世界一を目指したが、それ以上に大事なのは最高のチームを作ることだった」と話していました。
だからこそ、法大の選手たちにも「なぜ優勝したいのか?」と問いかけたいですね。
どの大学も「勝ちたい」と思っていますが、それ以上の強い目的を持つことが、より強固なチーム作りにつながると思います。これは個人にも言えることです。
なぜ学ぶのか、なぜ働くのか、その目的をしっかり持つことで、行動が変わります。
たとえば「1人でも多くの難病患者を救いたい」と本気で思っている医者は、試験が終わっても勉強を続けますよね。「これを成し遂げるんだ」という強い目的を持つことが、大きな力になると思います。
ーー法大はもちろん優勝を目指していますが、その中で足りないものがやはりある
どのチームも優勝を目指しているので、法大だけが特別に遠ざかっているとは思いません。
ただ、価値観が少し離れているというか、「勝てないかもしれない」という意識がどこかチーム内にもしかしたらあるんじゃないかなって。
もしそうなら、それは良くないんでやっぱり
「自分たちは絶対にできる」と信じることが大事かなって。
そして、それを支える周囲の存在も必要。
「お前たちなら必ずできる」と言い続けてくれる人がいることが、チームにとって大きな力になるので。
ーースポーツ法政はどのような存在か。
スポーツ法政は、学生に向けて運動部の活動を伝える貴重な媒体だと思います。
運動部を知らない学生も多い中で、同じ大学の仲間がどれだけ頑張っているのかを伝えてくれる。
その価値はとても大きいですね。
運動部以外の学生も頑張っていますし、お互いに情報を交換できるような場になれば、さらに良いものになるのではないでしょうか。
応援されることは、選手にとって何よりの力になります。
特に、同じ大学の学生からの応援は格別です。
その点で、スポーツ法政の存在はとても意義のあるものだと思います。
ーー大学生活で気をつけるべきこと
ないです!!極論犯罪以外は何でもやっていいというのが自分の考えなので。世の中にはたくさんの情報がありますが、実際にやってみなければわからないことが多いです。他人のアドバイスを聞くのも大切ですが、自分の経験として「これはダメだった」「これは良かった」と語れるようになることのほうが、ずっと価値があると思います。大学の4年間は、興味のあることにはどんどん挑戦してほしいですね。
ーー野球部の新入生について
今年は特に1、2年生に期待が集まっていますよね。大島監督も就任2年目ということで、自分が育てた選手を中心にチームを作っていきたいという思いがあるんじゃないかなとも思いますけど。その一方で、3、4年生にとっては複雑な部分もあるでしょう。正直、僕も現役時代に同じ立場だったらポジティブには捉えられなかったかもしれません。
でも、どんな状況も「どう解釈するか」は自分次第なんです。事実はひとつでも、捉え方を変えることで成長のチャンスにすることもできる。例えば、自分の思い通りにならない状況でも、「これが自分にとってどういう意味を持つのか」「この経験をどう活かすか」と考えることが大切です。社会に出ても、理不尽なことや自分の思い通りにならないことはたくさんあります。だからこそ、今のうちにポジティブな思考を身につけることが大事だと思います。最後の最後まで意地を見せてほしいですね。
ーープロ野球のOB戦でフライを必ず落とす件もポジティブ思考からくるのか
あれはもう、ある種のパフォーマンスとして関係者から求められているからやっているんですよ(笑)。でも、考え方って本当に大事で、昔は自分のミスを受け入れることができなかったけれど、今は違います。エラーしたという事実は変わらないけれど、それをどう捉えるかによって、人生は大きく変わる。今では「エラーがあってよかった」と思えるくらいです。
人はみんな、良いことも悪いことも平等に経験します。ただ、その出来事をどう受け止めるかが、その後の人生に大きな影響を与えるんですよね。ポジティブな解釈をすれば、見える世界も変わる。それが僕の実感です。
ーー大学生活の楽しいところ
大学生活は、とにかく自由でしたね。寮生活のような縛りもなく、すべて自分の選択次第。だからこそ責任も大きいですが、その分、自分の行動に対して納得感を持てるのが楽しかったです。
友人とのつながりも、大学時代にできたものは今でも続いています。最近は「夢や目標を持てない」という学生もいると聞きますが、実際にはみんな心の中に熱いものを持っていると思うんです。ただ、それを表に出すと否定されたり批判されたりするから、言わなくなってしまっているだけで。
僕は、そんな環境を変えていきたいですね。夢に制限なんてないんだから、もっと自由に思い描いていい。法政野球部が僕に与えてくれた文化や考え方を、大学全体に広げられるような風土になったらいいなと思います。
ーー六大学野球の魅力は
単純に気持ちいいですし神宮球場の雰囲気は、やっぱり特別ですね。六大学の仲間たちが戦っている姿を見れば、自分も頑張ろうという気持ちになるし、エネルギーをもらえると思います。選手たちも、そんな影響を与えられるようなプレーをしてほしいですね。
一度球場に足を運んで、あの空気感を味わってほしいです。選手たちが真剣に戦う姿を見ることで、何かを感じるはずですし、校歌をみんなで歌う一体感は、大学4年間の中でも特別な体験になると思います。
「どうせつまらないんでしょ?」と思うかもしれませんが、まずは騙されたと思って一度行ってみてください。もしつまらなかったらそれでいい。でも、行かなければわからないこともたくさんあります。経験することが大切だと思いますね。
ーー新入生へのメッセージ
僕が伝えたいのは、「自分を好きでいること」の大切さです。お金があるとか、良い成績を取るとか、就職がうまくいくとか、そういうことも大事かもしれないけれど、究極的には「自分が幸せであること」が一番大切です。他人と比べるのではなく、自分がどうすれば幸せになれるのかを突き詰めて考えてほしい。
僕にとっては、自分を好きでいることが幸せの鍵でした。だからこそ、それを大切にして生きています。でも、人によって幸せの形は違うはず。だからこそ、大学生活の中で、自分が何をしているときに一番満たされるのかを見つけてほしいですね。
それを早く見つけられた人は、きっと最高の人生を送れると思います。だからこそ、新入生のみなさんには、ぜひいろんなことに挑戦して、最高の4年間を過ごしてほしいです。
(取材・山口晴暉、中山達喜)
G.G.佐藤(じーじーさとう、本名:佐藤隆彦〈さとう・たかひこ〉)
1978年8月9日生まれ
千葉県出身・桐蔭学園高
185㎝・右投右打
『プロ野球の世界で通算88本塁打を放ったライオンズの元主砲。北京五輪の落球が印象的だが、その打撃力は当時の日本を代表するレベルであった。現役引退後もタレントや野球解説者など、マルチに活躍中。』
硬式野球部の写真はスポーツ法政新聞会の公式インスタグラムにも掲載しております。ぜひご覧ください。