【硬式野球】加藤重雄監督就任インタビュー

2021年1月31日(日)
法政大学野球部合宿所(オンライン)

昨年まで6年に渡って監督を務めた青木久典前監督の退任に伴い、新たに加藤重雄監督が就任した。監督就任から約1か月が経つ中、現在の心境、そして今後の展望についてのお話しを伺った。

新たに監督に就任した加藤重雄監督(写真提供:野球部)

加藤重雄監督インタビュー

ー監督に就任されてから約1ヶ月が経ちますが、現在の心境は
コロナで思うようにグラウンドは使えないんですけど、今は六大学のリーグ戦はあるものという想定で準備をしています。監督1年目といいながらも学生は今までずっと練習してきて良いメンバーも揃ってますし、みなさんのご期待に添えるよう、優勝を目指してスタートしています。

ー監督に就任された経緯は
2016年からグラウンドに週末に出てきて投手指導ということでチームに携わってきた中で、野球部内外でいろいろなことが起こってきているので、勝負に勝つということも含めて(任命されました)。あとは野球部の選手自体の人間形成、社会に役立つ人間になることを野球部を通じて学ぶということをOB会の方から任命されてですね、その両面で取り組むようにということで監督就任に至ったということですね。

ー青木久典前監督と話されたことなどは
特には(話などはしてないです)。引き継ぎということはちらっとやりましたけど、自分の目で確かめて自分の感覚で(選手を見ていく)。あまり前任の引き継ぎをやってもまた私の感性とは違うものがあるので、私は私でということで、あまりそういう形での引き継ぎはやってないですね。

ー大島公一助監督と話されたことなどは
やはり、勝負に勝つこと、リーグ戦優勝は誰がやっても揺るぎない大事なことなんですけど、それだけを追い求めて普段の学生としての佇まいなどが蔑ろにならないように、ということ。ただ勝負に勝つことだけでなく、両面で法政大学という看板を背負っているという意識を持って欲しい。その中でも野球部は「法政大学といえば野球部だ」と、皆さんから言われるのでそういう伝統を汚さないように、ということですね。もう一度学生にはそこを認識してもらおうということを2人で話しました。そこから学ぶことはいっぱいあるので、それが勝つことであったり社会に出て生かせることであったり。その両面を指導できたらなという話は2人でしました。

ー就任に伴って選手に話されたことなどは
同じようなことなんですけど、まず一つは東京六大学の一員であること。東京六大学というのはアマチュア野球というか、野球界全体の最高峰だと私は思っています。プロ野球より先に始まったのが東京六大学ですし、その中で早慶とかあるんですけど、うちが4番目に明治の次に加盟したわけです。何といっても天皇杯ですね。賜杯を下賜されてるのはこの東京六大学だけですし、その辺の自負と(東京六大学の名を)汚さないということを大事にするということ(を話しました)。もう一つは、何でもいい加減とか8割程度でやっていたら何も掴めないと思うので、全力で120%の力を出してその中で鍛錬しながら、野球を上手になっていこうということが何事においても、勉強においても仕事においても役立つことになっていくんじゃないかなと(いうことを話しました)。まとめると本気でやること。ズルはしないとか嘘はつかないとか、いい加減に取り組まない。8割程度でいい加減に取り組んでいるものを野球のファンの方々は見に来られるわけじゃないと思うので、学生の魂のこもった学生らしい取り組み(を見せて欲しい)。六大学の歴史と伝統を感じながら取り組んで、その結果が神宮で出せたら、センスのある卓越した才能のある野球選手が揃っているので、形になるんじゃないかなと思っています。野球でもなんでも一夜漬けにできるものじゃなくて、常に常に努力してその努力したもの同士、同じレベルの者同士が戦いますので、より努力した者が勝利を味わえるのではないかなと思っています。格下の人と言ったら悪いですけど、1番分かりやすいのが高校生と大学生が戦ったらやはり大学生が勝つ。それだけキャリアを積んでいますし、全国から集まっているわけですし、それだけ本気でやろうということを言ってます。

ー個別個別に選手とコミュニケーションを取る際にもそういった人間として在り方というようなものを大切にするように、とお話しされている
そうですね、ミーティングでも技術的な方は大島助監督に任せていますので。人間として、人間力という言葉ももちろん若くても分かるべきだと思いますし、それが人様から評価される1つの重要点になるんじゃないかなと。それを若いからといって蔑ろにしない。人間としてそういうことを築き上げていくようにと、そういうことが大切だからと常日頃言うようにしていて、1ヶ月の間に既に何回か言っています。

ー投手、野手という技術的な部分は大島助監督と分担されている
そうですね。

ー打線の組み方などもある程度大島助監督に一任する形に
そういうこともこれからなんですけども、任せようとは思っています。

ー今年は鴨川キャンプが中止、練習をグループ分けで行うなど選手の調子の見極めなどに苦労があるのではないでしょうか
そうですね。分担はしてますけど、だいたい2人で相談しあって見極めるようにはしています。ただ、これからですね。今はまだ同一線上でよーいどんで競い合うと。相手と戦う前に同一目線で見て、これからオープン戦なり、紅白戦なりで見ていくのでその実績を見ながら。もちろん高校時代の成績も考慮して決定していきたいと思います。

ー今まで投手コーチをされていたということですが、加藤監督が現役だった頃と今の選手の違いは
全然違いますね。(昔と今では)良い面悪い面がそれぞれありますね。じゃあ昔が全て良いのかといったらそういうわけではないですし、野球のできる環境にみんないますからその辺はうらやましいなと思いますね。他には技術的にはみんなすごく上手だとは思うんですけど、練習面ではピッチャーでいえば、投球数を増やして技術的なことをもっともっと追い込めばいいのになと思います。非常に身体を大事にする選手が多いなと。壊れるのが怖いのかそれで上手くなれると思っているのか、走るのはよく走っているとは思いますけど、もうちょっと球を投げるとか、そういう技術トレーニングという面で違いを感じたりはします。ただ監督でまだ1ヶ月経つか経たないかで、コロナで始動も遅れてスタートしていますし、その辺は一概に強制することはできないと思いますので、様子を見ている感じですね。

ー監督が在学されていた頃を振り返って
技術的には今の子たちの方が上手くなっていますね。それと環境がまず違いますよね。我々の頃は全部土。芝もなかったグラウンドで、まず整備のために何時間前からもグラウンドに出ていって、(整備を)下級生がやってから練習と。そういう時代だったんですけど、道具も本当に(いいですよね)。プロといってもいいくらいの人工芝で、ボールもたくさんありますし、とにかく一言で言ったら野球ができる環境が整っていると。寮の方も食事も立派ですし、充実していますし、昔と比べたら全然違いますね。

ー環境で恵まれているということも選手たちには意識してほしい
そうですね。「だから頑張らないとダメなんだよ」ということは就任してから間もないんですが、その辺は適宜言っています。ありがたいというか、感謝の気持ちを忘れないように、と。それを感じることで努力につながっていくことが大切だと思います。

ー監督が在学されてた頃はいわゆる黄金期だったと思いますが、その頃のチームの雰囲気はどのようなものでしたか
今はぜんぜんフレンドリーな感じですね。昔は言っていいか悪いかわからないですけど、上下関係ですね、縦のラインに揺るぎないものがありました。何がどう言われようと1年生と4年生との格差というのは非常に強いものがありましたから。それを意識して野球をやるという、精神修行みたいな時代でしたね。だからそのギャップというのは感じますね。今みたいに和気あいあいと良い環境でやれてたらもっと違った自分になったかもしれないんですけど、一長一短ですね。両方良い面と悪い面があると思いますよ。一概に今の子たちを昔に戻そうという気もないですし、昔の形を分からせながら今を生きていくというのは大事なことかなと思いますよ。

ー今の選手たちは良い意味で学年関係なくチームメイトとしてプレーしている
今は上級生のキャッチャーに下級生のピッチャーが「ちょっと受けてもらえますか」と言えますけど、言えない時代でしたので、昔は。今はそういうことに遠慮することなく、自分の練習ができるというのは幸せだなと。(昔は)上級生に「受けてやろうか」と言われるか、最初にそういう風に決められていなければなかなかそういうことはできなかったですね。だから影で自分で努力をしなければいけなかった。ネットに投げる、フリーバッティングでコントロールをつけるというような練習を自分でやっていくと。そういうふうに自力でやらなければどんどん遅れていくと。今はスケジュール立てて誰が誰と決められるので、そういう面では昔の方が強くなれたのかなと。ですからそういう面は取り込んでいこうと思っています。自らが志願して何かに取り組んでいくと。ピッチャーだけではなくてバッターもですね。その中でやっぱり自分で何かをするということ、もっともっと自分で考えてやるということは、要するに言われたことだけをやるってことではなくて、自分で何かを考えて取り組むというのは上手くなる要素だと思います。常にそういうことを大切に指導していきたいと思います。

ー1つ上の学年には江川卓(=昭52年度卒)さんがいらっしゃったと思いますが、江川さんから学んだことなどは
学ぶというか、「すごい」の一言でしたね。学ぶというよりは世の中にはすごい人がいるな、という感じでした。勉強になったのは事実ですけどね、桁外れに何をやってもすごい方でした。

ー監督の思う『法大』の野球とはどのようなものでしょうか
正しい答えになるか分からないですが、先ほどから言っていることに通じると思います。だんだん高校野球もプロ化、何か特化して野球が強ければいいんだというふうになってきて、それも良いことだとは思います。一方で、私はこの4年間、過去を振り返ったら(法大野球部にいた期間は)すごい期間だったと思います。だからここを大事に、しかも充実するようにやるためにはどうやればいいかをよく考えて過ごした方が良いと思うよ、ということを選手たちに伝えました。大学の時は僕もそこまで考えていなかったけど、振り返ってみたら、私は田舎から頑張ろうと覚悟を決めてここに来ていたわけですから。そのことを先ほどから言ってるように、心地よくとかいい加減に、ではなくて学生野球の神髄というのは何なのかというのを考える。野球をするだけでなくて、勝利至上主義であったりプレーが派手になってプロ化していく中で、学生野球の神髄が何なのかということをよく考えながら生活をするなり、野球をやっていくというのが抽象的なお答えになって恐縮ですけど、法政の野球であると思います。せっかく法政大学に入ってきたというわけですからそういったもの大事にして欲しいと。

ー昨年の法大を振り返って
コロナの中でイレギュラーなリーグになってしまって、残念ながら私もコロナで1年間あまり関われなかったんですけど、試合を見てて、雑なプレーが目立つなと。ピッチャーが頑張ってくれていたんですけどエラーが多いと。1番失策が(六大学の中で)多かったはずですからその辺が課題なのかなと。どんな試合でも六大学のエース級から投げてくるわけですから、そんなにボコスカ打てないと思うんですね。今日も全体に言ったんですけど、連続ヒットで長打を打って、ホームランを打って何点を取ったという野球はなかなかできない。だから、普段の練習から「ここは絶対にゴロを打つんだというようなことを考えて」と。「そこを意識して練習していくことで絶対に花が咲くから。意識するのとしないのとではぜんぜん違うから開幕までそういう練習をしていこう」ということを言ってます。去年はそういうことができていたかできていなかったかは分からないですが、ただバットを振って点を取るという野球でなくて、相手から点をもぎ取る、奪い取るという野球になっていくんじゃないかと思いますね。

ー目指す野球は1点1点を確実に奪う野球でしょうか
1点1点を確実に奪い取る野球ですね。(守備面は)失策を減らし守り抜くということですね。

ーその中でキーマンとなる選手は
ピッチャーで言えば新4年生の三浦銀二(キャ3=福岡大大濠)、山下輝(営3=木更津総合)、古屋敷匠眞(営3=八戸工大一)、平元銀次郎(営3=広陵)の4人ですね。野手はここであまり言うとそれがレギュラーみたいになってしまうのでそれは避けたいですけど、宮﨑(秀太、営2=天理)、副キャプテンの岡田(悠希、人3=龍谷大平安)、後藤(克基、法3=滋賀学園)とか。新4年生は今まであまり出番がなかったので花開いて欲しいなとは思いますね。

ー投手では三浦選手、山下輝選手、古屋敷選手、平元選手の4人が軸になっていく
軸ですね。

ー主将には三浦銀二選手を指名されました
だいぶ前から監督就任の話は頂いていて、その時から(考えていました)。法政大学でピッチャーがキャプテンになるのは珍しいんですが、二十数年前にはあったので、ないわけではないですし。三浦にしっかりしてもらいたい、一本立ちしてもらいたいと。去年ちょっと調子を崩していたということもあって、ピッチャー、キャッチャー、そしてバッテリーというものがしっかりしていないと野球というものはいくら打っても打っても点を取られたら負けますので、三浦にしっかりさせるためにキャプテンと。三浦に支えて欲しいと。自覚を持たせるためにということを監督就任前から心の中で決めていました。

ー昨年の三浦選手は1、2年の時に比べて苦しみました。投手コーチとして下級生の頃から見ていた中で今の三浦選手の課題とは
基本的に私はフォームが少し崩れていただけだと思います。何か精神的、人間的に崩れてきたわけではなくてそのバランスが悪かったのかなと。去年1日もコロナで出てこれなかったので、その辺は遠目で観察していたんですけど感じました。あとはLINEでここがおかしいぞというやりとりなどはしていました。

ー選手とはLINEなどを活用してコミュニケーションを取っている時もある
ええ。鈴木昭汰(キャ4=常総学院)とか高田(孝一、法4=平塚学園)なんかにも一時はマネージャーに江川さんの動画を渡して参考にしろと送ったこともありましたし、そういうものは活用していました。

ー来季の目標は
今日はそれを(全体に)言いました。我々は順位戦をやっているわけではない。優勝だけが価値があるだということは今日の練習始めのミーティングで(言いました)。2位以下はみんな一緒だから、たった1年で4年生にはチャンスは2回しかないんだよというのは今日念を押しました。その1回目がこの春に来ると。我々監督、助監督が今年の就任だから3位、4位でいいという言い訳はファンの皆さんには効かないんだから絶対に優勝を狙うんだ、ということを今日の練習始めの際に言いました。他の大学さんに遠慮することでもないので。優勝だけを狙っていますね。

ー他の大学で意識されている監督、コーチなどは
注目しているのは(早大の)小宮山(悟)監督。コメントとか記事がよくスマホに載っているので、考え方とかに興味があります。監督になる前から結構厳しく指導されているので、強くなるんじゃないかなとずっと関心を持って見させていただいていました。別に大リーガーだからということではなくて、早稲田イズムというものをもう一回呼び起こして、学生に合わせるんじゃなくて自分の志を大事にしている。早稲田で育った時の恩師の姿を大事にして、それを自分の財産だと思われているのがまさしく同感だというか。私もこの大学に恩返ししようと思って2016年7月から投手指導という形でチームに携わってきたので、その辺は参考になるというか同感でした。恐れ多いけども合い通ずるものがあると思うので興味を持って見させていただいていたら、優勝を去年されて。逆に言えば負けたくないなと。ライバル意識じゃないですけど。関心、興味を持って見ていることは確かですね。

ー昨季の優勝校ということもあって早大は意識されている大学
そうですね。

ーファンの方に向けてメッセージをお願いします
とにかく愛されて親しみを持っていただいて、強い法政を(作りたい)。既に何人かの方々からレターなどをいただいていまして、「強い法政をもう一度呼び起こしてください」という熱い想いをメールとかも含めていただいておりますので、優勝に向けてみなさんに可愛がっていただいて、ご支援していただける法政大学野球部を目指して頑張りたいと思っています。

(取材・五嶋健)

加藤 重雄(かとう・しげお)
1956年4月20日生まれ
鳥取県出身・鳥取西高→法政大学→日本生命
『現役時代は投手としてプレー。4年次には春に5勝、秋に4勝を記録した。卒業後は日本生命で7年間プレーし、85年に都市対抗野球優勝。16年7月から投手コーチとして法大投手陣を指導。21年1月から監督に就任。』

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