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【陸上競技】ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会 独占インタビュー 〜黒川和樹〜

世界陸上競技選手権大会

8月19日から8月27日にかけてハンガリー・ブダペストで行われた世界陸上競技選手権大会。法政大学からは黒川和樹、地主直央が出場した。今回は第一弾として、黒川のインタビューをお届けする。
予選では序盤から積極的な走りを見せ48秒71(3着)。着順で準決勝進出を決めた。迎えた準決勝では48秒58(4着)で決勝進出はならなかったが、大舞台で2年ぶりに自己ベストを更新。さらにパリ五輪の標準記録(48秒70)も突破するなど、次戦以降につながるレースとなった。

インタビュー

黒川和樹

ー2年連続の世界陸上でした 大会に向けてご自身のコンディションは
コンディションは結構良かったです。もともと世界陸上に出る予定があまりなかったので。結果的に、最後にポイントを取って出られるという形になりました。それまで練習を積んでいたので、いつもは世界陸上に向けて調整するんですけど、今回はそれをせずにもう一回練習を積みました。それのおかげもあって、当日のパフォーマンスは良かったかなと思います。

ー7月の田島記念で優勝し、ワールドランキングで内定しました 内定された時の率直な気持ちは
すごく嬉しかったですね。2年連続出られるということと、日本選手権がダメだったこともあり、出られるかわからない状況だったので。正直「厳しいかな」と思っていたので、出られると聞いた時はすごく嬉しかったです。

ー日本選手権の結果を受けて「気持ちが入りすぎていた」とおっしゃっていました 世界陸上に向け、気持ちと体の調整をする上で工夫した点は
考えすぎないようにしました。日本選手権は3連覇がかかっていましたし、(世界陸上の)標準記録もまだ突破していない状況で、色々なプレッシャーがありました。レースをしないといけないのにレース以外のことを考えてしまうことが多くて。
今回の世界陸上は挑戦する側ですし、楽しんで走れたらいいなくらいの気持ちでいました。

ー同じ種目である400mHには、法大OBの皆さんがいらっしゃいました チーム法政で臨む世界陸上はいかがでしたか
去年も岸本さんがいたんですけど、今年は児玉さんもいて。児玉さんは1個上ですし、寮でもずっと一緒だったので、近い存在として、言い方が適切かは分かりませんが試合感のないような気持ちでいられました。リラックスをして、いつも通りの感じで臨めたことが逆に良かったのかなと思います。

ーご家族から何かメッセージはありましたか
僕の両親は山口の実家から見ていたんですけど、「気負わず、リラックスしたら大丈夫だと思う」と言われたので、それを信じて走りました。

ー海外での試合でした 時差の問題は
結構僕は、どこでもどのタイミングでも寝られるタイプなんですよね。時差調整で工夫したこととしては、向こうに着くタイミングが朝だったので、飛行機でずっと寝るようにしていました。

ー予選3着、シーズンベストで準決勝に駒を進めました
結構久しぶりのレースが世界陸上だったので、「大丈夫かな」と不安もありました。ただ、ここでできなかったとしても変に気負うことはないと、割り切って走りました。前半から結構積極的に行って、後半耐えられなかったらその時はその時、というふうに考えていました。ですが走ってみると意外と後半も走れて、タイムも48秒71で。パリ(五輪)標準が48秒70なので、そこで標準を切れなかったことで、「準決勝で切ってやる」という気持ちが増しました。

ー予選後には医務室に運ばれるというハプニングもありました
英語に関しては、ニュアンスは結構わかるんですけど、48秒台で走ったのが今シーズン初だったこともあって本当にキツくて。前半から攻めたので、思った以上にハムとお尻が痛くなって。でもその時、(フィールドから)上に上がるように言われていたんですよ。でも階段なので、それを登るのは無理だと言って(笑)。その後も何か言われていたので、上に上がるように催促されているのだと思って、ずっと「イエス」と言っていたら車椅子が来て。「あれ?」ってなりました(笑)。

ー準決勝前の選手紹介では、観客の応援を求めるようなシーンもありました どのような気持ちでしたか
あまり覚えていないというか、意識してやっていたわけではないんですけど、準決勝という舞台を心から、体で感じたいなと思っていて。なのであのような動きになったのだと思います。

ー黒川選手は大学入学からコロナ禍での競技生活でした やはり観客の存在は大きいのでしょうか
観客がいても緊張しますけど、いないと盛り上がりがないので。静かな中でレースをするとなると気分も上がらなかったりするんですよね。観客の応援に応えるとなるとプレッシャーにつながってしまうので、観客の声援を受けて頑張ることはありますね。

ー苅部監督からなにか言われたことは
「守らずに前半から行ったほうがいいよ」ということは言われました。苅部監督自身が、守って失敗した経験があるとおっしゃっていて。その言葉を聞いて、前半からしっかり行くしかないと決心しました。

ーご自身でレース前にプランは組み立てていましたか
外レーンにベンジャミン選手とドスサントス選手がいたので、高速レースになるだろうと考えていました。ですが、前半で守っても、僕は後半に走れないタイプなので、しっかり外の2人を見ながらレースを進めようと考えていました。

ー前半はベンジャミン選手と並ぶような走りを見せていました
1つ外のレーンにいたフランスの(ベラン)選手も同じスピードで行っていたので、ベンジャミン選手よりはそちらをターゲットにしていました。

ーラスト1台あたりからはベラン選手と互角のレースを見せました
抜かしたら3着だったんですよね。3着か4着かの違いは結構大きいと思うので、絶対に3着を取りたいという思いで走っていました。

ー自己ベストの更新もありました 走り終えていかがでしたか
2年間ベストが出ていなかったので、ベストが出たことに関しては嬉しかったです。ただその反面、48秒3-4くらいが決勝のボーダーだったので、そこまで手が届かなかったことは悔しいなと思いました。

ー予選から準決勝までの間にご自身の中で修正した部分は
7台目、8台目のあたりで予選ではちょこちょこ走ってしまったのですが、準決勝はそれをなくして、ハードルの直前で歩数を合わせるのではなく全体で歩数を合わせていけるように改善しました。

ー準決勝でパリの標準(48秒70)を切りました 狙っていましたか
予選が48秒71だったので、さすがにここで切らなければいつ切るのか、と思っていたので、だいぶ振り絞りましたね。めっちゃきつかったです(笑)。
準決勝終わりも上に上がるように言われていて、その時も足がやばかったんですけど、また医務室に連れて行かれるのは嫌だったので、上の方に行って寝転んでいました(笑)。

ー注目選手とされている中でのレースでした 緊張はいかがでしたか
あまり緊張していなかったですね。結構観光とかが楽しくて、そっちに気が向いていました(笑)。観光して、ホテルに戻ったんですけど、ホテルの部屋も児玉さんと一緒だったのでいつも通りという感じでした。

ー観光で良かったところは
夜に国会議事堂とブダ城がライトアップされていたのでそれをドナウ川の船に乗りながら見ました。めちゃくちゃ綺麗でしたね。

ー選手村の食事は
ごはんと、味付けをされていない魚や肉があって、そこに自分でソースをかける形でした。僕は味噌汁とかを持っていっていたので、スープ類はありました。日本食がないときついので、持って行っている選手はだいぶ多かったです。

ー東京五輪や二度の世界陸上出場など、非常に活躍されています ご自身の中でどのような点が飛躍につながっていると思いますか
競技面だと、上半身のウエイトを取り入れるようにしたのが一つの要因かなと思います。僕は後半で体を振って走るタイプなんですけど、上半身の筋肉がついている時の方が後半走れていて。レディーステディ(READY STEADY TOKYO)と今回の世界陸上と、ベストを出した時は上半身がパンパンになっていたんですよね。肩から腕を振るタイプなので、後半につながるためには上半身の筋肉が大事なんだろうなと思って、ずっとやっていました。ただ、上半身の筋トレをがっつりやっていてもなかなか筋肉がつかなくて。夏に体重が落ちやすいので、そこで上半身の筋肉も落ちて、インカレで毎回筋力がない状態、ということが多かったんです。
でも、日本選手権で一区切りついたことで、しっかりウエイトする期間があったので、それがだいぶつながっているのかなと思います。

ー筋力トレーニング以外に、食事などで気をつけていることはありますか
あまりないですね。食事制限とかをするとストレスに直結しそうなので、僕は試合前とかにもなんでも食べます。美味しいものをいっぱい食べるようにしています(笑)。

ー400mH日本記録保持者の為末大さんが黒川選手について「覚醒する可能性を秘めている」とお話しされています
その通りだなと思います。メンタルとかが直でレースにつながるタイプで、嫌なことがあったらタイムが悪くなるし、良いことがあったらタイムが良くなるんですよね。今回の世界陸上で、意外と何も考えなくても行けるんやなということを感じたので、ストレスフリーで、プレッシャーなしで自分らしく走れたらいいなと思います。

ー今回の世界陸上で仲良くなった選手などはいらっしゃいますか
結構自分から話しかけに行くので、仲良くなるのとは違うかもしれませんが色々な選手と話しました。見かけたら「いつ試合ですか」とか「お疲れ様でした」みたいな感じで、結構コミュニケーションを取るようにしていました。

ーそれは国内外関係なくコミュニケーションをとっていたのでしょうか
そうですね。ベンジャミン選手とか、ワーホルム選手とかにも、「認知されているのかな」と思って話しかけに行ったら「おお、久しぶり」みたいな感じで言われて。嬉しかったです(笑)。

ー世界陸上を終えて今の心境は
春先に関しては、タイムはあまり悪くなかったんですけど、日本選手権にピーキングを合わせられなかったことも含め、不安定だったなと思います。ですが世界陸上で結びついたので、そこはすごく嬉しかったです。準決勝でPBを出せたことがすごく自信になりますし、来年のパリ五輪に向けて良い流れができているなと自分でも思います。
実は結構ずっと、日本選手権が終わってからやる気がなかったんですよ。良い感じでピーキングが行っていたはずなのに全然ハマらない、みたいなことがあったので、「陸上ってなんなんだろう」と思うことがありました。でも今は陸上が楽しいです(笑)。

ー日本選手権後のその状態から世界陸上に向けて、もう一度気持ちを持ってくるのは相当大変だったと思います
日本選手権前まではすごいプレッシャーがあったというか。標準を切らないとやばい、3連覇しないとやばい、というような気持ちをずっと抱えていました。でも、日本選手権を経て、その気持ちがなくなったことで今回の結果につながったのかもしれないです。変に抱え込むのではなくて、自分らしくやっている方がタイムも出るなと思いました。

ー2年前のインタビューでは「パリ五輪に向けて47秒5を出しておきたい」とおっしゃっていました 今改めて目標とするタイムは変わりますか
やっぱり47秒台はマストで欲しいなと思うんですけど、考えすぎてもいけないなと思います。ただとりあえず47秒台を出したいですし、出せそうな流れは来ていると思うので、タイミングとコンディションが合えばっていう感じですね。

ーパリ五輪を見据える中、今後に向けて修正したい点は
5台目から6台目の14歩に切り替えるところと、7台目8台目の15歩に切り替えるところでだいぶ置いていかれているので、歩数を減らすかスピードを維持するのか、考えないといけないなと思います。

ー歩数の切り替えはみなさんされるのでしょうか
400って後半しんどくなるじゃないですか。その中で、ずっと13歩で行くのは結構しんどいんですよね。前半13歩で行くスピード感で後半も行くと、体が動かないのでバウンディングというか、スピードが出なくなってしまうんですよ。そうなると置いていかれるので、14歩とか15歩とかに増やしてもスピードをゆっくりにせず、ギアを上げるような感じですね。ピッチを上げる感覚が近いと思います。

ーASICS Japanの動画では毎回違ったフルーツを持って出演されています シリーズ化しているのでしょうか
世界陸上が決まった時も、動画を何個か撮る用にフルーツを探していました。
オレゴンの時は、選手村にフルーツが置いてあったんですよ。それで始まっただけなんですけど、ハンガリーの時はパイナップルとかを持って撮ろう、という話になっていて。でも選手村にパイナップルとかが置いていなくて、バナナとりんご、プルーンが置いてあったことで、今回はプルーンになりました(笑)。

ーメガネとヘアバンドで注目されていることについて
何も印象がない選手よりは、印象があったほうがみんなにも認知してもらえると思うので、そこはすごく嬉しいです。

ー今後の目標は
日本記録について、やはり大学生のうちに更新したいという思いが強いですね。

ー最後に応援してくれている方へメッセージを
いつも応援ありがとうございます。応援してくださるのがすごく力になるので、これからは与えてもらった勇気を返せるように、僕も頑張っていきます。これからも、応援よろしくお願いします。

(取材:芦川有 撮影:艶島彩)

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