【硬式野球】秋季リーグ戦開幕直前特集 第1回 神長英一監督
2014年9月7日(日)
法政大学川崎総合グラウンド
屈辱の5位に沈んだ春季リーグ戦からはや3ヶ月。夏のキャンプ・オープン戦を通じ、激しいレギュラー争いが行われ、1からではなく0からチーム作りがなされた。様変わりした法大ナインで再び天皇杯を目指す戦いが始まろうとしている。第1回は神長監督。秋季リーグ戦への選手起用、意気込みなどを伺った。
投打ともに充実の夏。「非常に価値のあるオープン戦」
―今夏の北海道キャンプのテーマは何でしたか
春季リーグよりも技術面と精神面の両面において高めていくということが目標で、何をということよりは個々の力を伸ばすことによって、チーム力が上がっていくという構図だと僕は思います。まずは個人の技量、考え方、メンタルの強さなど総合的なものを高めることがチーム力アップにつながるので、そこについては特段大きく掲げることもなく、チーム力アップ=個人の力を向上させるということが目標でした。
―秋季オープン戦を振り返って
まず打の方は、終盤に向けて尻上がりに良くなってきましたね。それはチーム打率にも表れています。評価できるのは、どこの大学にしてもリーグ戦に接近すればするほど公式戦に入っていくメンバーをセットしていると思いますので、終盤になって打率が上がるというのは想定外でしたね。優秀な投手たちが出てきてそう簡単には打てないはずのところに、中盤から終盤にかけて打撃が好調で、2割2、3分だった打率は2割8、9分ぐらいまで上がったというところですね。投手に関しても、形としては“4本の柱”というか石田、玉熊、鈴木(貴)、川名あたりで回していって、勝率的にも7割以上ありました。この夏のオープン戦については勝敗というのはあまり問わないですが、内容として投手はなるべく踏ん張って、1点でも多く取っていくという形は、先ほどの打率と並行して尻上がりに上がっていったという気がしますね。それはチーム力だったという気がしますけど、今の段階では良い形で(リーグ戦に)入れるかなと思っています。
―勝敗は問わないとおっしゃっていますが、今夏のオープン戦の勝率が良かったことについていかがですか
先程も申し上げた通り、尻上がりに好調になってきたということが一つ。それから好調が結果にすべて結びつくかと言うと難しくて、ただ今回の戦績について改めて見てみると、調子が良かったんだなと。良い流れの野球はやっていましたが、それが必ずしも直結するとは思っていません。ただチーム状態があまり良くないという状況だとすれば、この戦績はミスマッチなのかなと思います。なので、まずこれだけ勝てたということは投手の踏ん張りであったり、ディフェンスのしぶとさであったり、攻撃のここぞという場面での得点であったり、攻守ともに良いと思うところがたくさん出た非常に価値がある夏のオープン戦だった気がします。例えば亜細亜大とやる、東京経済大とやる、社会人とやるとかで何かを変えるかというと、「そこを変えずにひとつの野球として考えろ」と私は選手に常々言っていましたし、そういった意味では相手というよりはどういうゲーム内容だったかなというところが重要なのかなという気がします。
―以前まではいらっしゃらなかった投手コーチについて
臨時コーチですね。あくまでも法政大学のスタッフというのは私と助監督の青木だけです。どこの大学でもお手伝いされる方はいるでしょうが、OBの方が現役の強化のためにお手伝いいただいているということですから、名前はどこか記載されることはないです。あくまでもOBの手助けということで、彼のみに限らず来ていただいている方はいらっしゃいます。私よりも先輩の方ですし、信頼を置いてピッチャーを見てもらっているというところですね。表立って云々ということはないメンバーの方ですが、OBというのは間違いないです。
―投手コーチが来て変わった部分や選手は
まだお見えになって数ヶ月で、1週間に1度というレベルですので、なかなか手に取るようにというのは難しいところにあるのですが、ただ違った角度で指導を受けた投手が、好投手になりたいというプロセスの中で、こういったやり方や考え方があるんだなって体感をしている最中なんだと思います。それが開花するのはそんな簡単なことではないですし、来て2、3ヶ月で急に法政の投手陣をガラッと変えるということはないですが、ただ一人ひとりが違ったことを感じているのは事実だと思います。それをどうやって実現させるかはこれからなので、変わったかどうかはリーグ戦の結果をご覧いただきたいです。ただコーチがサウスポーなので、特にサウスポーの人間は興味を持って接しているのかなという気がしています。うちのエースの石田がそうですし、左の投手が教えやすいのか、コミュニケーションを取っていただいてやっていますのですごく助かっています。結果というのは少しずつ本人の意識の違いであったり、大げさな話ですが、これからの長い野球人生の中でどうやって活かせるのかなということであったりとか、即効性のあるものであったりです。色んなものをお教えいただいているのだと思いますから、何とか来ていただいているということなので、私は今の投手陣に何とか結果を残してもらいたいなと、恩返しをしたいなという気持ちはすごくあります。
野手は「センターライン」がキーワード
―若林選手をセカンドへコンバートした理由と意図は
彼は高校時代に遊撃手と投手をやっていて、大げさな話をすれば「ショートやっていた人間はセカンドできないわけがない」という根底があります。ただ大学に入ってのセカンドというのは初体験であったということですが、そこは野球人としては何も驚いてないと思います。3年生の秋になって初めてセカンドをやるということの見極めをしたのは助監督の青木が「セカンドをやらせてみませんか」というのがあったのは事実ですね。若林としても消化不良なシーズンを送ってきて、ポジションにとらわれている場合じゃないということがありましたでしょうし、どこかで試合に出られればという意識の中でセカンドをやっていると思います。守備でチームを助けられるレベルかはわかりませんが、当たり前のプレーができるセカンドなのかなという気はします。まだまだ内野の奥深さというのはこれからでしょうけど、まずはきちっとしたプレーができるレベルであればいいのかなというところですね。
―オープン戦終盤では若林選手を5番で起用していますが
打点が多いですね。ですからそこら辺りにいてくれると、ランナー溜まっているケースが多いのかなということです。打点が多い、チャンスに強いとすると私も助監督もオーダーを決定づけるときのポイントとしては、そこらにすると点が入りやすいのかなというのがありました。ただ若林を5番で起用すると決めたわけではないですし、そこは他の選手の仕上がり状況も加味されるというか、今回の法政大学のオーダーの中で、ざっくりと1~5番を中軸とした場合に、若林が中軸になるのは間違いないですね。セカンドのポジションでどこの打順に置くかというのは、ここまでやってきた適正を見て、直前に決めていきたいと思います。
―長い怪我から復帰された森本選手について
一言で現すとしたら“異色”ですね。1年生でデビューして、2年、3年、4年の前半まで故障に悩まされて、現実的な目を一般就活に向けたりありましたので。森本には失礼になるんですけど、ベンチ入りメンバーはこれからですが、森本が神宮のフィールドに立つということになるとかなり驚かれる方はいると思うんですね。そこは本人もそうだと思うんですよ。非常に完治しづらい腰痛を患っていて、一般の生活に支障が出るほどの患いだったのが、完治と言っていいのかわかりませんが野球ができる状態まで回復したので。ただ本人の中には春終わって練習を再開したときから「やってみようかな」、「やれるぞ」という何かがあったと思います。うちはリーグ戦の(メンバーを)振り分ける以前は全員同じ練習をやるのですが、そのときの姿を見たときに例えばバッティングの中でヘッドスピードが際立っていた部分があったんですね。それは何を表しているかというと、準備をしていたことは間違いないということなんです。患ってしまった腰が快方に向かっていると感じて、来るべきときのために自分自身にトレーニングを続けていたと思いますね。それは彼のヘッドスピードやバットの出方であったりとかは腰を患っていて就活をしていた人間がいきなりやったというものではないことぐらいは僕も感じたので、そういった意味では彼の中ではきちっとした準備が進んでいたのかなという気がしますね。春のリーグ戦以前から、「行くぞ」という気持ちの準備はだいぶ前からセットされていたと思うんですよね。それは久しぶりに彼のプレーを見たときに、非常に速いバットのスピードであったり、身のこなしであったり、「こんなに急にできるものなのか」と「実は自分でしっかり準備をしていたのではないか」と感心しました。今のままでいけば、ベンチに入りメンバーの25人に入ってくる可能性はあるんじゃないでしょうかね。甲子園の華々しい活躍からこちらに来て予想通りデビューをして、パタッと最後の秋まで何にもなかった。普通はそこで終わると思うんですが、“異色”ですよね。なおかつ就活して内定をどこかいただいたという状況だと思うんですよ。そこはもう彼の努力で正に“二刀流”じゃないですか。就活とリーグ戦ということで。彼と同じように就活に時間を数ヶ月間費やした方というのはサポートに回ってくれていますが、彼は就活をしながら公式戦メンバーに入る可能性を掴み取ろうとしているところが異色ですよね。これはただ誰にでも権利があるものだと思いましたから、賛否両論あると思います。半年や1年野球をやっていなかった人間が毎日やっていた人間を飛び越えて、公式戦メンバーに入れるべきなのかって言ったときに、僕としては大きな範囲のものに結論を出すことはないです。ただ右投げ左打ちの一塁手として、スタメンかどうかは別にしても、非常に自分自身で今の居場所を掴んだというか、紅白戦をやって仕分けをしていくときにも、好成績を残して分けられてない方に残っています。私は精神論で彼を救済したりピックアップをしているのではなくて、就活を終えて帰ってきて「だったらやってみなよ」ってところで彼は良い意味で期待を外したんですね。だからこれはうちとしては上級生にとっては良いサンプルなのかなと。そういう人がいたっていいんじゃないのというところはありますね。要はチームが勝つために必要な人材になれているかという次元に“両刀使い”で来れているかどうかですね。さほど打率は残せませんでしたけど、オープン戦にメンバーに外れず(最後まで)入っていたのは、チーム内の競争に勝ってきたからであるし、一塁手で言えばひょっとしたらそこに伊藤(諒介)がいたかもしれないですし。それ森本だったのか伊藤だったのか。現実は森本だったんだなというところですね。
―伊藤諒介選手はキャンプメンバーやオープン戦でもスタメンから外れていますが
やっぱり打撃でしょうね。彼の場合打たないと自分の居場所が無いタイプなので、守りと機動力という面では元から貢献するレベルには無いことは自他共に認めていると思います。ですからバットが湿っちゃうとこういうことになるタイプの選手は損ですね。やっぱり守れて走れて、それから打てなくても守れるだけの選手は(メンバーに)入っています。彼はバットだけが特徴なのかなってところで、そのバットが結果的には1割、2割台ということになってきてしまうと、今のチーム状況の中では後ろの方に回ってきてしまうことだけであって、もう彼の場合であればバッティングですよね。そこが不調ということ以外何もないです。キャンプメンバーに入るのも競争ですし、4年生と1年生で同じ力であれば僕は将来を見据えて若い選手を使いたいという気がしています。
―その若い選手ということで、1年生の大崎選手や清水雄選手をオープン戦で多く起用していますが
2人ともに共通する点というのは、機動力を生かした野球を展開する上で、非常に使いやすい選手ですね。
―その1年生がレギュラーを取る可能性もありますね
若い選手が試合に出るということは、チームにすごく活気が出るかなという気がしています。色んな意味でチームに影響力が大きいのかなと。同級生に対してもそうですし、上級生に対しても、同じ力であれば若い人を使うというのはおかしなことではないと思っていますから。神宮の地というのは経験した者に素質が身につく場所なのかな。1球でも多く投げたい、打席に立ちたいというのに、ぜひそうさせたいという気持ちはありますね。上級生になったらそういうのはダメだということではないですけど、僕はそうさせるレベルの選手がいればいいなとすごく思いますね。
―畔上選手が大学日本代表に選ばれたことにより、チームに変化があったことや個人に変化があったことなどは何かありましたか
彼が行ってきたからといって変わったことは特別ないですね。彼自身の中で変わったことがあったかは僕にはわからないですけど、向上心のある人間なので、全日本に入ったことで自分の目で選手を見て、きっと自分の肥やしにしていこうとしていると思います。全日本は自分のためだったと結論に至っちゃいけないんだけど、チームに何か還元できれば1番良いんですが、まずは自分にとってどうだったかなというところだと思います。何か変わってほしいですけど、それが変わっていたとしても手に取るようにわかるかと言えばそういうことばっかりじゃないですか。ただ周りに全日本入った人と一緒に動いていることによって、“無言の影響力”というものは無いことはないと思います。それがチームにどういう影響力を及ぼしているかというところまでインパクトがあるものではないと僕は思いますが。ただ「行った経験をうまく自分で生かしてくれよ」と。そこで社交辞令として言うのであれば、「それをチームに還元してくれよ」と。今後の畔上にとって大学日本代表に入った実績は大きいことかもしれませんね。高いレベルで野球をやれる喜びを感じた経験というのを自信になっていると思うので、彼は決して無駄にしないと思います。
―今季の打線のキーマンを挙げるとしたら誰ですか
佐藤(竜)、畔上、若林かな。中軸の彼らの働きによってチーム成績が変わってくると思うので、キーマンに挙げたいと思います。
―春季リーグ戦の最終日での取材で「野手はぶっちぎったレギュラーをつくりたい」と発言されていましたが、この夏を通じてどれくらい達成できましたか
前シーズンよりもセンターラインは決まってきたかなというのはあります。二遊間やセンターであったり、キャッチャーの安本であったりということで、真ん中が決まったということに安定感があるのかなという気がします。(春季は)セカンドもなかなか固定されてなかったですし、ショートのスタメンは佐藤がけがをしたのもあっていきなり1年生だったことを含めると、今回どっしりセンターラインが決まったということは少し落ち着いたスタートが切れるかなという気がしますね。
石田、玉熊につづく投手に注目
―投手起用についてどのようなプランをお持ちですか
春に引き続き石田、玉熊の2つの柱としてやっていくところに誰がそこに入れるかなというところがポイントですね。そこの入っていける選手で言うと、鈴木であったり川名であったりという気がしますね。
―リーグ戦経験の無い川名選手の台頭について
夏のキャンプでの成長ですね。大学野球でたぶん1番あることじゃないですか。春は全然名前を聞かなかった人が秋に出てくるというのは、当たり前のように必ずあって、今回うちの場合だと川名ですね。野手で急激に伸びたのは若林かな。急成長は良いものかどうかはどうかはわからないけど、秋のリーグ戦への(メンバーで)チーム内の順位を春から秋に向けて上げてきたことは間違いないですね。
―川名投手はどのあたりが成長したなと感じますか
フォームを変えたんですよ。オーバースローから少しスリークォーターにしたことが適性として良かったんじゃないかな。ただそれは初めての経験じゃなくて、高校の時に少しそのイメージはあったそうなので、初体験ではなく以前の自分を思い出してみたフォームがスリークォーターだったと。少なくともオーバースローの時よりもしっくりきているということですね。
―フォームの変更というのはコーチの助言ですか
いえ、「変えてみてはどうか」と私が言いました。2年間オーバースローでなかなか思い通りに成果が得られない中で、3年生になって春が終わって、「やってみたらどうか」という話はしました。少なくともオーバースロー時代よりはマウンドに上がる機会が増えてきたということは、ゲームで少し投げられる(レベル)という見方をしたわけです。
―1年生に有望な投手が多いという印象なのですが、今後の育成方針などは
高校時代に優秀な投手だった人が例年よりも入ってきたことは事実です。ただそれが六大学で通用するレベルかどうかというのはこれからの努力とこちらからの指導だと思います。非常に期待したい人が多いのは事実です。ただ誰がどれだけ(投げられる)という計算が完了しているわけではなくて、出てこられる可能性のある人が数人いるということなので。この秋もそうなんですけど、来年春に向けて、来年100周年とういうこともありますし、私自身が高校時代を見てきた選手が大学生となってのパフォーマンスに期待しているところは多くて、右も左もというタイプを揃えていてバラエティに富んでいますから、誰が出てきてくれるのかなと。今はまず基礎的なことを鍛えて、試合に投げられるチャンスがある人は投げていますけど、将来的には複数のレベルが高い選手が揃うようになってくれればいいなと思います。
リーグ戦は「スタートダッシュ」で勝負
―今季も青木助監督は三塁コーチャーを務められるのでしょうか
野球の中で三塁コーチャーの重要性は私もしっかり感じているところがあって、学生コーチよりは青木という単純な解答です。
―秋季も開幕戦が早大とですがイメージや印象というのは
早稲田と言えば有原くんでしょうね。
―開幕戦で当たるのが六大学を代表する投手の有原選手と予想されますが
点を取るのは難しいんだなという印象はありますね。もちろん打線の奮起は促すんですが、有原くんと対戦するときは無駄な点数をあげてしまったらいけないところに意識がいきます。勝機は絶対にあると思っているので、つまらない失点を許すと完全に勝利を逸するということですね。この春のスタートは完封されましたけど、今度は完封されないようにするということと、1点でも2点でも取って勝つには失点は許されないことなので、そこを両立てで考えています。
―リーグ戦での対戦相手の順番について
前回のリーグ戦の結果で自分たちが選んだものではないので。ただパターンとして前半戦で勝負が決まるんだろうなという気は何となくしています。日程表を見てもスタートダッシュが必要なのかなという印象はありますね。
―今季のチームを表すとしたら
新しくデビューする人もいれば、当然うちの顔として出る選手もいますけど、新戦力が攻守共に大きく左右するリーグ戦になる気がしますね。若林もそうでしょうし、川名であったり、そのあたりがポイントで左右するかなと思います。もちろん今まで出てきた選手もそうなんですけど、新しい力の台頭が期待されるチームというか、Bクラスが続いているわけですから何かを変えなくちゃいけないという意識が、変えるという意味ではあまり固定観念を持たずにいくというところがありますね。
―最後に、リーグ戦への意気込みをお願いします
先ほどの日程もそうですけど、うちに課されたのはやはり勝っていくスタートだと思うので、スタートダッシュが大事かな。そこを成功させると、月並みな言葉になってしまいますけど、本当に良いスタートが切れたら面白いなというか、しっかり自分の力を発揮できる人材が揃っているかなという気がしますね。何としてでも早稲田戦で勝ち点を取って、次の立教につないで、この1節、2節をクリアしたらかなり大きなチャンスが来るかな。うちにとっては1節、2節に凝縮されるリーグ戦になるのかなと思います。
(取材:川添岳)
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