【硬式野球】「ここで熱くなれなかったら野球選手じゃない」流れを一変させたエース・篠木健太郎が語る激闘の立大戦 あの逆転打は『ゾーン』に入っていた!?
1勝1敗1分で迎えた立大4回戦は、延長13回裏に松下歩叶(営3=桐蔭学園)の劇的サヨナラ本塁打で激戦に終止符を打ち開幕カードで勝ち点を獲得した。
だが忘れてはならないのはその前日の3回戦。1敗1分で迎え、負けたら勝ち点を落とす一戦で、アンストッパブルな活躍をみせた篠木健太郎(営4=木更津総合)だろう。自身4度目の開幕投手を任された1回戦では味方が初回に2点を先制するも、2本のソロ本塁打を浴び2-2で9回引き分け(プロ併用日のため)。8回122球2失点とまずまずの好投も、「ブルペンから右足の感覚がピント来てなくて、調子が悪いのは分かっていた。勝ちが1番良かったが、それでも負けなかったことはプラスに捉えて3回戦に向けて修正しないといけない」と試合後は次を見据えた。
続く2回戦は前日に122球を投じ、3回戦での登板も決まってたこともありベンチを外れスタンドで応援。しかしWエースの一角、吉鶴翔瑛(営4=木更津総合)が味方のミスも重なるなど3回4失点、チームとしてもミスの連鎖は止まらず5回までに7失点と大崩れ。厳しい試合を目の当たりにし1回戦を取ることができなかった責任を感じたという。それでもスタンドで私が会った際には「明日は俺がなんとかするから」と力強い一言。開幕カードを落とした大学は21世紀に入り優勝していないというジンクスもあり、1敗1分の負けたら勝ち点献上の3回戦はいきなり大きな山場となった。
勝負の3回戦は「7番・ピッチャー」と打順を8番から1つ上げると、試合前に投手陣を束ねる髙村祐助監督から「お前で勝て」と激励を受けた。さらに1回戦を通して「フォームのバランスということで、右ひざが折れすぎないように」と修正。さらに配球に関しても「1戦目から真っ直ぐを多くした。(それはなぜか)変化球が多いよりかは、真っ直ぐが多い方が仲間の受け方として、調子が悪くないんじゃないかなと思ってもらえる」と改めて直球にこだわった。しかし初回に相手4番にいきなり先制打を浴びる苦しい立ち上がり。それでも直後の攻撃で、バッテリーを組む木更津総合高の後輩・中西祐樹(法2=木更津総合)のリーグ戦初安打ですぐさま同点に。一塁走者だった篠木はチーム1を誇る俊足を生かして三塁に到達し、中西に向かって大きくガッツポーズをみせていた。
チームは春の4年生中心のメンバーから、監督が夏を通して競争を促したこともあり下級生がスタメンに名を連ねることが増えた。実際に3回戦のスタメンの4年生は篠木と外野手3人のみで、その他は全員が3年生以下のリーグ戦経験に乏しい選手たち。「中西や石黒(和弥、法3=高岡商)といった思いっきりのいい選手がリーグ戦に入って迷っていた」と試合を通して感じていた篠木はベンチや塁上から「腹をくくれ」と何度も叫んでいた。そんな選手達の活躍に「すごくうれしかった」と笑顔も。
その後は両投手の好投もありスコアが動かず。しかし7回2死一塁から、代打に勝ち越し三塁打を浴び1-2。「失投」と振り返る甘く入った初球の直球をライトフェンスまで運ばれた。最少失点で切り抜けベンチに帰ると髙村助監督からは交代を示唆されたが、「負けちゃいけない試合で点を取られて自分がマウンドを降りて、逃げた時点で流れを相手に持っていかれる。譲る気はなかった」と志願の続投。まさに1年生の頃に見た三浦銀二(令和4年卒=現・横浜DeNAベイスターズ)、山下輝(令和4年卒=現・東京ヤクルトスワローズ)のエースとして『マウンドを守る姿』だった。8回表の攻撃で打席が回ってくることも分かっており、大島監督から「打席に立つぞ」と、1死一、二塁の好機でバッターボックスへ。鬼気迫る表情もみせていたが、「ネクストで(前の打者の)康淳(藤森、営2=天理)の打席をみてて、真っ直ぐとフォークがある程度のラインで区別できることがわかった」と頭の中は冷静だった。そして「高校3年夏の打席以来の『ゾーン』に入っていた。(どういった感覚なのか)ボールのラインがめっちゃ見えるみたいな(笑)」と超集中状態で2ボールとカウントをつくり、3球目の真ん中に入った直球を無意識に振りぬくと打球は左中間を深々と破る逆転2点適時三塁打に。三塁にはヘッドスライディングで到達、ベースを利き手の”右手”で激しく2度叩くと、雄たけびを上げ続けた。「あそこで熱くなれなかったら野球選手じゃない」とその時を振り返り自身を、そしてチームを鼓舞。8、9回もマウンドに上がり、ギアを上げると4つの三振を奪い1勝1敗1分のタイに戻し仲間にバトンをつないだ。
激闘となった第4戦は春から期待を寄せていた野崎慎裕(営3=県岐阜商)がリーグ戦初先発で4回2失点の投球でリードを許すも、中津大和(営4=小松大谷)の2ランで同点に。5回以降は同期の山城航太郎(キャ4=福大大濠)、安達壮汰(営4=桐光学園)が2人で7イニングを無安打、打者21人に抑える圧巻のロングリリーフ。延長12回、13回は1年生・倉重聡(営1=広陵)がピンチを招きながらも、バックの好守にも助けられ得点は与えず。
この試合もベンチ入りしていた篠木。実は8回にベンチの髙村助監督からブルペンへの電話で「9回までに僅差で勝っていたら1イニングいけるか」との連絡が。「いきます」とブルペンで1度は肩を作った。しかしその場面は訪れず、延長に入ってからは吉鶴が常にブルペンで投球練習を続けた。さらに延長10回にはブルペンへの電話で「代打の準備」とベンチに戻りエルボーガード、バッティング手袋を身に着け出番を伺っていた。
そして延長13回裏、歓喜の時が訪れる。「なにか起こすなら”まっちゃん”と思っていた」(篠木)と今夏の大学日本代表でもチームメイト、帰国後もその経験をチームに伝え続けてきた松下歩叶(営3=桐蔭学園)のサヨナラ本塁打で試合修了。篠木はヘルメットも帽子も身に着けておらずベンチから飛び出すのが遅れ、ホームベースの歓喜の輪には加わらず。それでもブルペンから走ってきた吉鶴と目が合うと「気づいたら抱き合っていた」と熱い抱擁を交わした。
次戦は今週末、春の王者・早大。「勝ち方、勝つ喜びを知っているチーム。受け身になった時点で負ける。早稲田に対しても自分からいいリアクションを起こしていきたい」と中3日と過酷な日程にもなるが、悲願の優勝へ一喜一憂することなく前を向いた。(矢吹 大輔)
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