【硬式野球】

2023年12月18日(月)

不定期連載の記者コラムとなる『暁の勇者』。紙面やウェブサイトに書ききれなかった出来事などを担当記者がお届けします。今回は第108代主将としてチームをけん引した今泉颯太(法4=中京大中京)の4年間の軌跡をお届けする。

第108代主将の今泉颯太

『主軸として、主将として『強い法政』復活へ取り組んだ4年間の軌跡』

今泉颯太(法4=中京大中京)が法大に入学したのは2020年のこと。列島が新型コロナウイルスの脅威に見舞われた年だった。人々の行動が制限された中で、大学野球界も大きな制限を受けた。「コロナで始まってなかなか野球もできず、リーグ戦も思うようにやれずという中で、何をしているんだろうという時間があったり、日々何もない目標の中で時が過ぎていくということが最初の方は続いていた」。今泉も苦心の時を過ごした。

そんな今泉がリーグ戦初出場を果たしたのは2年次春のこと。2試合の出場に留まったが、フレッシュでは出塁率は.462、本塁打も1本記録。秋には初安打を記録し、最終的に9試合に出場した。しかし、終盤にはベンチスタートとなる場面もあった。

春フレッシュ明大戦で本塁打を放つ今泉。チームの優勝に貢献した

この秋の経験が今泉を変えた。「自分がチームを引っ張ろう」と自覚が芽生え、冬にはパワーアップと守備の正確性を重点的に鍛え上げた。今泉本人が転機と語る春開幕戦。その第1打席で初球を左翼スタンドへ叩き込んだ。神宮初アーチを放つと、その後も打ち続けて3本塁打、打率も.286と躍進。後に、このシーズンを「(この経験がなければ)今キャプテンもやれてないと思いますし、さらに自分としてやるべきことをしっかりやらないというのはすごく感じた」と振り返る。

この春3本塁打でブレイク。オールスターにも選出された

しかし、秋は打率.209と苦しいシーズンに。その中でも、今泉は黙々と野球に向き合った。この姿勢が加藤重雄監督の目に留まった。同期には高校時代主将を務めた選手が多い中、主将に依頼されたのだ。

開幕戦で3安打。今季も順調化に思われたが苦しいシーズンとなった

まず今泉が取り組んだのはチーム改革だった。それまでの法大は4位、5位を行ったり来たりと低迷。『強い法政』を取り戻すべく、スローガンには「相手に克つ、自分に克つ、下克上」の思いを込めて『克』を掲げた。目指したのは「1球にこだわるチーム」。さらに、私生活の面にも改革をすることに。主務の上田龍弘(営4=城北)などの幹部陣で寮生活1つに至るまでリスタートを切った。

右から主務・上田、主将・今泉、副将・内海貴、副将・浦、高原侑希(法4=福井工大福井)、篠木健太郎(営3=木更津総合)。多くの選手がチームのことを考え、下克上を目指した。

2月には4年ぶりに千葉県鴨川市でキャンプを敢行。6日間野球漬けになり、チームは1つになった。鹿児島での『薩摩おいどんカップ』にも参加し、リーグ戦へ向かった。
リーグ戦では主将と中軸の3番を担うことに。しかし、安打が出ない場面も。早大2回戦からは打順も5番に降格となった。それでも、ここから意地を見せた。最終的には.269まで打率を上げた。

慶大3回戦で本塁打を打つ今泉。試合前に大島公一助監督から貰ったアドバイスに本塁打で一発回答!

「タイトルにこだわりながらも1打席1打席1試合1試合を楽しみながらやりたい」と意気込んで迎えたラストシーズン。このシーズン、チームで意識したのは「つなぐ野球」。自らも「後ろに頼もしい内海(貴斗、人4=横浜)・浦(和博、キャ4=鳴門)がいたのでとにかく塁に出て繋げようと思って打席に入っていました」とチーム最多の10四死球を選んでチームを牽引した。

その出塁力で打線を牽引し、ラストシーズンでキャリアハイを達成した

打率は初の3割を記録。この1年、主将としてチームを導いただけでなく、打撃や強肩を生かした守備、そして走塁でもチームに勝利をもたらした。本人が得意と語る走塁は、二塁から三塁を回る際、余分に膨らまず一気に本塁へ。チームに勝負所で貴重な1点をもたらした。その貢献には加藤監督も「3年間みんないいキャプテンだったんですけど、中でも機能発揮というか、頑張ってくれたキャプテンだと思います」と賛辞を送った。

主将として、「誰にも妥協せずに自分の思ったことを伝えよう」とチームを支え続けた

ドラフト候補として評されることもあったが、プロ志望届は提出せずに社会人野球へと進むことを決めた。
その中でも今泉が選んだのは地元・愛知の名門企業であるトヨタ自動車。今夏に行われた都市対抗野球大会では予選を含めて1敗もせずに頂点まで駆け上がった。また、昨年の社会人日本選手権大会でも優勝し秋夏連覇を達成するなど安定して力を発揮している。その原動力は選手育成。中でも源田壮亮(現西武)、藤岡裕大(現ロッテ)など遊撃手の育成には定評があり、正遊撃手の和田佳大も社会人屈指の遊撃手としてその名をとどろかせている。
それでも、「やはりいい選手がいますし、そういういいものを吸収して、自分が足りない守備であったり打撃の確実性だったり走塁の意識をもっとあげることだったり、人間としても成長することができればプロで活躍することもできるかなと感じています」と厳しい競争へ向けて意気込む。

六大学のライバルたちと切磋琢磨してきた。早大・熊田任洋(左)もトヨタ自動車への入社が決まっている。愛知出身の2人はさらに互いに高め合う

法大での4年間も中原輝也(令3年度卒=現エイジェック)、高田桐利(令4年度卒=現JFE西日本)や海﨑雄太(令4年度卒=現JR東日本)との激しい内野手争いに打ち勝ってきた。この競走、そしてチーム改革に挑んだ経験は大きな財産となった。
「来年、再来年と自分や4年生の姿を見ていた後輩たちがいい文化を受け継いでほしいなと思います」。後輩達や来春に石見智翠館高校から法大へ入学する弟・秀悟さんへ夢を託し、自身はさらなる財産を求めて2年後の夢へフルスロットルで挑む。

(皆川真輝)

今泉颯太(いまいずみ・そうた)
法学部4年 2001年12月18日生まれ
愛知県出身・中京大中京
178㎝m80㎏・右投右打
今季成績:14試合 61打席 15安打 0本塁打 3打点 10四死球 打率.300
通算成績:64試合 256打席 56安打 5本塁打 20打点 33四死球 打率.257

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