2021年1月2日(土)・3日(日)
東京・大手町ー神奈川・箱根町
幾度となく挫折を味わってきた4年生が挑んだ最初で最後の箱根駅伝。チームとして結果は総合17位に終わり、目標には届かなかった。来年のシード権を後輩たちに残すことはできなかったが、何度失敗しても立ち上がる不屈の精神力はきっと新チームへと受け継がれるはずだ。今回は特別編と題し、泥臭く練習を積み4年目にしてようやく箱根駅伝の出走が叶った4年生を取り上げる。
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スペシャルコラム
近年、陸上界を席巻しているナイキの厚底シューズ。今年の箱根駅伝では出走した210人のうち201人がこの類のシューズを着用したと言われる。分厚いソールの中に埋め込まれているのはカーボンプレート。これにより着地時に足から加わる力を弾性エネルギーとして蓄え、それが推進力を生み出す。バネのように優れた『弾力』がレースの高速化をもたらした一因である。
弾力は英語でresilience(レジリエンス)。この単語自体は「元の形や位置などに戻る力や能力」という意味で定義されており、しなって再び元に戻るカーボンプレートの様子はまさしくこれに相当している。レジリエンスという単語は心理学の世界において、苦境から『立ち直る力』という意味でも使われる。倒れてもまた起き上がる。何度失敗しても絶対に心は折れない。まるで全国各地から有力選手が集まる厳しい環境に身を置き、わずか10個の椅子を競い合っている箱根ランナーたちのことを示すかのようである。
それを最も象徴するのが最終学年にして、ようやく出走が叶った古海航(社4)、須藤拓海(社4)、田辺佑典(経4)、糟谷勇輝(経4)ら4人の4年生である。彼らはいわゆる谷間の世代と呼ばれ、決して周囲からの評価が高いわけではなかった。これまで箱根駅伝の16人のエントリーに入ることはあっても、なかなか出走するまでには至らない。前回大会は田辺と糟谷がそれぞれ3区と9区にエントリーされたが、当日変更により箱根路に足を踏み入れることはなかった。「落とされたことに関して納得はいってなかったのですが、次の箱根に向けて頑張るしかない(田辺)」。屈辱を味わっても尚、心は折れず再び努力を決意した。
「辛いことばかりだった」と4年間を振り返る田辺。しかし、常に前を見続ける姿勢は後輩たちの目に焼きついたはずだ。
彼らの最初で最後の箱根駅伝は満足のいくものではなかった。それでも「自分は力はなかったですが、コツコツと練習を重ねれば、箱根を走れるということを後輩たちに示すことができたのかなと思います(糟谷)」。一般入試から陸上部の門を叩いた須藤も「力のない人でも4年間しっかり練習していけば4年目で力を発揮できるというのを証明できた」と自信を持って話す。まさに七転び八起きを体現した4年間だった。
箱根路を颯爽と駆け抜けた彼らの足元には奇しくもナイキの厚底シューズがあった。ときにこのシューズはその性能の高さから「ドーピングシューズ」などと批判されることがある。しかし、彼らを走らせていたのはソールに埋め込まれたカーボンプレートの力ではない。4年間で培った『立ち直る力』こそが彼らを最後の最後まで後押しし続けた。「4年生が4人走ることができたんですけど、走るだけみたいな形になってしまった」と糟谷は悔しさをにじませる。しかし、きっと4年生たちはまた、この悔しさをバネに新たな目標に向かって羽ばたいていくはずだ。
先頭は6区を走った須藤。4年生たちは卒業後もそれぞれの道で輝きを見せることだろう。
(記事:根本 成)