戦評
渡辺倫果(通経1)
シンプルな灰色ながらも、胸元に宝石を散りばめたような衣装で登場したのは渡辺倫果19才。日本選手権や国際大会にも出場する期待の1年生である。力強い動きと堂々とした表情で始まるプログラムの最初のエレメンツは2アクセルだ。挑戦中の3アクセルはSPでは封印し、流れるようなジャンプで出来栄え点を確実に取っていく。続く3ルッツ+3トウループではGOEが1.18点も付き、このコンビネーションジャンプだけで驚くことに11.28点も稼いだ。基礎点が1.1倍になる最後の3ループも綺麗に着氷。後半にいくにつれ盛り上がる曲に合わせスピンのスピードも速くさせ、ステップも華麗に、そして確実に踏んでいく。スピンもステップも全てレベル4だったが、目標の点数よりはまだまだ低いという渡辺の意識は既にFSへ向いていた。SPは全体3位で翌日のFSに臨んだ。
渡辺の目標は全体2位になること。挽回を目指し、翌日行われたFSは、元アイスダンス日本代表として活躍していたキャシーリード氏が振り付けした「カルミナ・ブラーナ」である。重厚感のある音で始まるこの曲に合わせて滑る渡辺は、普段の愛らしい姿からは一変し魅力的で大人な一面を見せる。3ループとコンビネーションジャンプをしっかりと決め、次は今季の一つの目標である3アクセル。しかし、惜しくも両足着氷となりダウングレードとなってしまう。これについて渡辺は「6分間練習では右足で立って転ぶという良い3アクセルが出来ていたが、本番ではあまり良くない失敗をしてしまった」という。それでもFS2位、総合2位という好成績で終わり、持ち味である技術点も1位の宮原知子(木下グループ)と6点差まで迫った。「さらにスケーティングスキルを磨いていかないといけないと思った」と語る渡辺は更に強くなることだろう。これからの渡辺の活躍に胸が躍る。(佐々木みのり)
佐上黎(文4)
今季法大フィギュア部唯一の4年生としてラストイヤーに臨む佐上黎が、最終滑走で東伏見のリンクに登場。SPには「辛いときや落ち込んでいるときに聞いていた曲。今までの競技生活を振り返りながら楽しく滑りたい」と思い入れの深い『stand by me』を新たに採用した。最終滑走のプレッシャーがかかるなか、最初の3ループこそ回転不足で減点となったものの、その後は大きなミスなくまとめあげた佐上。結果はスコア47.59の12位と、危なげなくFS進出を決めた一方で、出来栄え点や演技構成点が伸び悩み、目標の50点には届かず。今後に向けて伸びしろを残す演技となった。
佐上は今季FSもプログラムを変更。採用したのは憧れのマライア・ベル選手も使用している『A Star Is Born』だ。冒頭のコンビネーションをはじめとしたジャンプを見事に決め、最高の形で滑り出しに成功。続く3サルコウこそ着氷に乱れがあったものの、その後は焦ることなく立て直した。疲れが溜まる演技後半になっても、最後まで気持ちのこもった滑りを見せ、目標を大幅に超えるスコア93.81の10位。総合順位もSPから2つ上げた10位で、東日本選手権進出を決めた。「調子が悪いなかでも、気持ちを乱すことなく落ち着いて滑ることができた」と精神的にもこれまでの成長を示すような、堂々たる演技を披露した。今シーズンの目標を聞くと、「演技を見てもらえる喜びと、これまでの感謝を皆さんに伝えたい」と佐上。さまざまなプレッシャーがかかるラストイヤーではあるが、何よりも最後まで、スケートを楽しむ姿をファンに届けてほしいと願うばかりだ。(宮川昇)
樋口瑞保(文3)
女子SP27番目に登場したのは樋口瑞保。自身の名前が呼ばれると愛嬌のある笑顔とともにリンクの中央へ。しかし、プログラム・『水百景』が流れると一変、真剣な顔つきで滑り始めた。曲に合わせ手先までしなやかで丁寧な滑りを披露する中、一つ目のジャンプ。見事2アクセルを成功させ順調な滑りを見せる。しかし、二つ目のジャンプはルールにより0点に、三つ目のジャンプもコンビネーションに繋げることができなかった。「情景が伝わるような演技をすること」を目標にしていた樋口は、自身も気に入っているというステップシークエンスをミスなく披露するなど、丁寧で美しい演技でミスをカバーした。総合得点は43.28点で18位。2年連続の東日本選手権出場のため、FSでの巻き返しを狙う。
昨日のSPではミスが連発し、18位となった樋口。総合15位以内に入り、東日本選手権に出場するため、ミスが許されない試合となった。FSに選んだ曲は『ある愛の詩』。 曲が流れると昨日とは打って変わって切ない表情で人々を魅了する。その中、一つ目のジャンプ・2アクセルを成功させると次の2アクセルも難なくこなす。挽回へ向け順調に滑り出したように思えたが、次の3トウループの着地に失敗し減点されてしまう。しかし、樋口はここで諦めなかった。得意とするコンビネーションスピンやステップシークエンスを華麗に成功させ得点を重ねていく。また、コンビネーションを含む後半のジャンプを成功させるなど、樋口の滑りを披露。しかし、序盤のミスも響き、FSの得点は89.07。総合16位で惜しくも東日本選手権出場とはならなかった。「昨シーズンの自分を超えること」を目標としていた樋口にとって悔やまれる結果となった今大会だった。(東夏紀)
菊池彩子(通経2)
シニアデビューとなった昨年の東京選手権では「自分の未熟さを感じた」と話す菊池にとって、自身二度目の公式戦。今回のプログラム「arabia」にマッチした青のアラビア風の衣装に身を纏って颯爽と登場した。最初の3ループでは回転不足により減点となるが、その後のフライングシットスピンではレベル4を獲得し、菊池本来のシャープでエレガントな滑りが見えたように思えた。しかし、後半の3サルコウでは転倒しダウングレードという評価を受けてしまう。SPでは2本の三回転ジャンプが思うように決まらず、滑走後は悔しげな表情を浮かべた。昨年の37位より9つ順位を上げたが、得点が伸び悩む結果となった。また、他の選手がFS進出を決める中、菊池は無念の2年連続FS落ち。来年こそは悲願のFS進出、東日本選手権出場を決めて欲しい。(閏間咲稀)
インタビュー
渡辺倫果
―総合2位という結果について率直に
今回の目標は2位だったので、目標をちゃんと達成できて良かったです。
―SPについて。3ルッツ+3トウループに良いGEOがついていました
練習からそのコンビネーションは調子が良かったので、練習通りに決まってほっとしています。
―ステップもスピンも全てレベル4でした。今シーズンはスケーティングスキルの向上が目標と言っていましたが満足していますか?
目標としていたプログラムの点よりはまだ低かったので、これからの東日本選手権などに向けていい調整ができたらなと思っています。
―FSについて。3アクセルが今季のひとつの目標だったと思いますが、惜しくもダウングレードとなってしまいました
6分間練習では、右足で立って転ぶという感じのいい3アクセルができていました。本番ではあまり良くない3アクセルになってしまったので、これから続く東インカレ、東日本、国体予選の3試合の中で、少しでも良い3アクセルが本番でできるといいなと思っています。
―6分間練習の使い方は
6分間練習は基本的にジャンプしかやらないです。そこで良いイメージを掴んでそのまま本番に臨むというのがいつもの流れです。
―ステップ中に魅力的に微笑んでいるのが印象に残りました。演技で気を付けたことは
最近はジャンプが安定してきたので、ジャンプに気を取られずにスケーティングの方にも意識を向けることができました。その面で昨シーズンよりはスケーティングスキルの点数があがってきたので、ジャンプに余裕があってよかったなと思います。
―技術点は1位の宮原知子選手(木下グループ)に6点差と迫っていましたが
自分の武器はジャンプの安定や技術点がほとんどです。やっぱりスケーティングスキルの点数で差が開いてしまうので、更にそこを磨いていかないとなと思いました。
―これからの試合の目標は
3アクセルはもちろんですが、今シーズン全体の目標として演技構成点をあげるというのがあります。(演技構成点をあげることは)自分のやらなければならないことだと思っているので、そこを少しずつあげて3アクセルを降りられるようにしたいです。
―法政のフィギュア部の雰囲気は
本当にみんな仲良くて、先輩方にも親しくして頂いています。合宿もすごく楽しかったです。部員全員が集まれるのが年に一回の合宿しかないので、合宿を年に何回もしてほしいぐらい楽しい思い出ばっかりです(笑)
―大学生活や勉強の方は
全然単位が取れなくてどうしようという感じです(笑)大学生がこんなに大変だと思わなかったです(笑)
―4年間の目標は
最近練習環境も拠点も変わって、自分の考え方など色々なことが変わりました。自分でも良く成長できているなと実感しているので、この4年間で少しでも世界に通用するような選手に近づきたいです。
(取材日:10月13日)
佐上黎
―SP12位、FS10位の総合10位で次のステージへ進みました。この結果について
ショートはシニアになって初めての最終滑走だったので、緊張するかなと思ったんですけど、逆に何のプレッシャーもなく滑ることができました。最近は練習で全ミスすることが多く、調子が良くない中で、ショートもフリーも大きなミスも無く最小限に抑えられて良かったです。ただ、スピンのレベルの取りこぼしがあったのは、もったいなかったので、次はしっかり取っていきたいと思います。
―SPについて。最終滑走というプレッシャーがかかる場面で、逆に緊張することなく滑ることができた。その要因はどこにあったと思いますか?
時間も夜遅かったので、いつもの夜練のような感じで滑ることができたのもあると思います。最初でも最後でもやることは変わらないので、そこは割り切ってできました。
―今季SPとFSもプログラムを変えられましたよね。SPにこの曲を選んだ理由や想いは
大学最後のシーズンなので、暗い曲ではなく、自分が楽しく滑れて、見ている人にもそれが伝わるような明るい曲にしたいと思っていました。『stand by me』はスケートで辛い時や落ち込んでいる時に聞いていた曲なので、今までの競技生活を振り返りながら滑れたらなと思って選びました。
―目標の50点には届きませんでした。昨シーズンの東日本でも同じく47点台。この50点の壁を乗り越えるために必要なことはどういった部分だと考えていますか?
3つのジャンプを回転不足なく決めることが一番大事だと思います。ただ、それだけでは50点に届くかどうか微妙なところなので、スピンやステップのレベルもちゃんと取らないといけません。他の子と比べてもPCS(プログラムコンポネーンツスコア)が若干低いので、そこも上げていきたいです。
―FSの演技全体を振り返って
自分でも90点を超えるとは思っていなかったので驚きました。フリーはあまり東日本のことは意識せずに、自分が今できることを最大限出せれば十分かなと思っていましたが、結果的に通過できたので良かったです。6分間練習でサルコウがなかなかハマらなくて焦ったんですけど、本番でのジャンプは意外と安定していたので、気持ち的にも乱れずに落ち着いてできました。
―アンケートを見ているとFSの新プログラムもかなり思い入れのあるように感じました
私の好きなマライア・ベル選手がエキシビションで使っていたのを見て、すごく素敵だなと思っていました。映画も見て、自分と重なる部分もあって、最後の年に使いたいと先生に言ったら、いつもはほとんど却下されるんですけど、今回は「悪くない」と採用してもらえました(笑)
―次の大会に向けて改善点は
フリーは後半体力が落ちて、演技が若干雑になってしまうところがあります。そこは滑りこんで曲を体に慣らしていく必要があるのかなと思います。
―昨シーズンから続くコロナ禍で、現在の練習の状況は
以前は朝も夜も1時間半とか練習ができていたので、それに比べるとコロナになってから45分くらいしか取れない時もあります。一般滑走の時間がすごく大事になってくるなと思ったので、そうしたところで滑るようにしています。
―率直に今大会の後輩の活躍について、先輩としてどうご覧になりましたか?
年々自分よりも下の学年の子が活躍しているのを見て、自分としても法政としても嬉しいです。自分はそんなに上手じゃないから、(後輩たちには)もっと頑張ってほしいです。インカレの出場枠とか、東インカレも滑れるか分からないとか、たくさん後輩が入ってきて焦りもありましたが、大学1年の時とかよりは頑張らないといけないなという思いも強くなりましたし、集中して練習できていると思います。
―今シーズンの目標は
全部の試合をノーミスで終えたい、インカレにも行きたいという目標はありますけど、あまりそこに意識を向けすぎると、自分の性格上考えすぎたり、上手く体が動かなかったりしてしまうと思うので、自分の演技を見てもらえるという喜びと、これまでの感謝を演技を通して皆さんに伝えられたらいいなと思います。
(取材日:10月13日)
(撮影:佐々木)