硬式野球部関西遠征 特別特集
8月4日から10日にかけて行われた関西遠征。選手とともに練習に励みながらも、ときおり首脳陣のもとへ向かい、意見を交わす男がいた。奥田知朗(スポ4=国士舘)だ。選手でありながら、奥田に託された役割はプレーだけではない。監督と選手らの間を行き来し、チームを内側から動かしていた。
なぜ奥田は、その役割を託されたのか。偏差値30。高校最後の夏はメンバー外。Cチームからのスタート…それでも、野球への思いは消えなかった。野球人生の中で何度も壁にぶつかってきた男の『野球への熱』に迫る。

笑顔を見せる奥田
「勉強は飽きなかった」六大学への渇望
高校時代、奥田は東京の強豪・国士舘高校で汗を流していた。2年秋の時点ではメンバー入りしていたものの、スポーツ推薦や大学に紹介されるほどの実績が残せず、最後の夏ではメンバーから外れた。決して順風満帆とはいかない選手生活だったが、法政大学出身の知り合いがいたことや、当時プロ野球を目指していたこともあり、奥田は「一般受験しか道はなかったんですけど、一番注目されている東京六大学を目指しました」。
しかし、これまで野球一筋だった奥田にとって、一般入試の壁は高い。高校時代の模試の偏差値は30。現役時、どの六大学の合格もつかめなかった。それでも、東京六大学への思いが消えることはなかった。
浪人時代は、1年間缶詰状態で勉強に取り組み、1日13〜14時間は当たり前。それでも「野球への熱が勉強に流れたので、勉強は飽きませんでした」と淡々と語る。初めは良くなかった成績も、次第に勉強への手応えを感じるようになっていく。「点数は出てないけど、『こうやったらこうなるやん』みたいな。兆しが見えてきたと思いました」。
そして迎えた2度目の挑戦。とにかく東京六大学にこだわった奥田は、法政大学のみ出願し試験へと向かった。“背水の陣”で臨んだ結果は合格の2文字だった。
「誰よりも自主練習に取り組んだ」野村克也氏から学んだ精神
念願の法大野球部に入部すると、奥田はCチームから練習を始めた。Cチームはリーグ戦出場から最も遠い位置にある。厳しい境遇でも努力を続ける支えとなったのは、南海で名捕手・強打者として活躍し、ヤクルト監督として日本一に輝いた、野村克也氏の著書だった。
野村氏の著書を愛読していた奥田は、「今こうやって関西に来れているのも、考え方や物事の捉え方を本から学んで1年生から実践した結果」と振り返る。
野村氏がテスト生から這い上がったエピソードと自分を重ね、自分の軸をぶらさずに、バッティングフォームの改善に取り組んだ。試合に出れず、結果が思うように出なくても、精神状態を一定にし、自らを客観的に分析することを心がけたという。自らが「誰よりも自主練習に取り組んだ」と言い切る4年間の先に、転機が訪れた。今年の6月、大島監督から奥田にある役割を託された。

大島公一監督と意見を交わしあう奥田
「橋渡し役」としての新たな役割
全体ミーティングで監督が発するメッセージは、個々の選手にまで具体的な意図が伝わりにくいこともある。そこで大島監督が奥田に任せたのが、首脳陣と選手をつなぐ「橋渡し役」だった。監督の意図をくみ取り、それぞれの状況に合わせてかみ砕いて伝える。一般入試を乗り越え、ようやく立てた法大のグラウンド。選手を続けながらも、チームに貢献できるこの役割を、奥田は葛藤もなく引き受けた。
浪人時代に培った「何が問題だったか分析し、ミスを埋める」考え方に加え、捕手として、バッテリー間の関係や投手の球を受けている経験も生きた。悩んでいる投手の球を受けて、自分の感覚と投手本人の感覚がどう違ったのか、首脳陣の言葉を交えながら選手にアプローチしているという。奥田は「選手みんなが良くなってくれた時が一番うれしい」と、やりがいを感じていた。

和やかな雰囲気で行われた練習の様子。奥田はいじられキャラとして、チームメイトとの親交を深めている。
いくつもの壁乗り越えた先の「到達点」
高校時代、自らが東京六大学で野球をするために燃やした「野球への熱」。法大で迎えた4年目、その熱は自分だけでなく、仲間のためにも注がれている。
法大野球部にとって、関西に来て、ただ試合を行うだけでは意味がない。この遠征の中での試合後の反省や、課題をどう修正するかが鍵を握る。奥田は「考え方や修正の仕方をチーム全体へ染みつける」橋渡し役として成長を支える一方、選手として自らの出番にも備えている。奥田は、出場機会が与えられるのなら、代打の一打席になると考える。「しっかり準備して、チームに貢献できる結果を出せればいいかなと考えています 」。
選手の成長を支えながらも、自らは一打席への準備を怠らない。二つの立場からチームを支える姿が、いくつもの壁を乗り越えた奥田の到達点だ。
(記事:加納正義)
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